アバターインの今後

 アバターインは、今後競争の激化が予想されるアバター技術の世界で存在感を持ち続けることはできるのか。ジェフ・ベゾスがロボットアームを披露し触覚デバイス技術に興味を持っていることは有名だ。アマゾン、グーグル、テスラなどが参入しても、アバターインは生き残れるのだろうか。

「私は戦略の教授ではないけれど」と前置きした上で、ヒル教授は、「アバターインの可能性を信じている」と答えた。まず、高度なロボット技術があり、人々のロボットの受容性も高く、政府も後押しをしている日本でやることの有利性がある。そして、多様なプレイヤーと信頼を土台に、オープンな連携関係を構築する深堀氏と梶谷氏のリーダーシップによって、自治体やJAXAのような政府機関とも協働できていることは大きな強みになる。実際、これまで数々の技術開発のコンソーシアムを見てきたXPRIZE財団も、アバターインのここ数年の実績に感銘を受けている、とヒル教授に話したそうだ。

 ヒル教授は今後自分が教えるHBSの企業幹部向けプログラムでアバターインのケースを使う予定でおり、その時はぜひ深堀氏と梶谷氏にもゲストとして授業に来てもらいたいと語った。また、MBAの授業でもこのケースが使われたらと願っており、これから関心を持ちそうな他のHBSの教授と話をしてみる予定だとも言っていた。

 リーダーシップと聞くと、とにかくすごい人、というイメージがある。ヒル教授は長年の丁寧な研究で、リーダーとはいわゆるすごい人ではなく、まわりの人たちをすごくする、人々の天才性を開花させる人のことだと指摘してきた。そこにさらに、自分の組織を超えて、全く違う分野・地域の人たちと軽やかにオープンにつながりながら未来に向かうリーダーシップが生まれてきていることに気づき、その一つの形をアバターインの深堀氏と梶谷氏の中に見ている。「絶対にやり切るという覚悟、緊急性を持ちながら、同時に寛容でもあります」(ヒル教授)

 筆者はオンラインで一度インタビューをしただけだが、並んで時々互いを見ながら話す深堀氏と梶谷氏を見ていると、なぜかこちらまでニコニコしてしまう。「JAXAの人に、『なぜ彼らと一緒にやろうと思ったの?』と聞いたら、『二人を好きになったから』と答えていて、『私もよ』と言って笑ったのよ」とヒル教授が言っていたが、まさにそうで、全く飾ることなく、自分たちの弱さやできないところも含めてそのままの自分としてそこにいる二人の前にいると、こちらもまとっている鎧がとれる。そうやって深堀氏と梶谷氏はシリコンバレーから大分県まで、経験も価値観も異なるいろいろな人とまっすぐな信頼関係を築いてきたのだろう。

 ヒル教授の書いたこのHBSケースと共に、深堀氏と梶谷氏のまっすぐな等身大のリーダーシップのかたちが広く伝わることを願っている。