(4)判断力

 ケースメソッドは、学生がケースの主人公の立場に立ち、決定を下し、その正しさを主張することが求められる。ケースには議論の余地が多少は残されているものの、どっちつかずの立場を取る余地はない。多くの場合、教員は正しい答えが一つではないことを十分に理解しながらも、学生に選択を迫る。実際、ほとんどのケースは、経営手法が有効か否かをあぶり出すことよりも、ディスカッションの刺激になることを意図している。

 どのようなケースでも、学生は自分の決定に説得力があるかどうか、クラスメートや教員からフィードバックしてもらう。それを通じて不確実な状況でも決定を下し、その判断を周囲に伝えて、賛同を得るという力が養われる。いずれもリーダーシップに欠かせないスキルだ。

 判断を下したリーダーは敬意を得る。学生はケースメソッドを通じて、そのような判断力を磨くための練習を繰り返すことができるのだ。

(5)コラボレーション

 ビジネスで何らかの決定を下す場合には、幅広いギブアンドテイク、討論、そして熟考の末に行ったほうがよい。どのようなチームスポーツもそうであるように、練習によりコラボレーションが上達する。

 ケースについて、まずは少人数のグループで、次にクラスでディスカッションすることは、他者とのコラボレーションというメタスキルを磨く助けになる。HBSの卒業生はしばしば、ケースメソッドのおかげで、ミーティングに参加したり、その場をリードしたりするスキルが向上したと語っていた。

 互いに協力し合うことで、その中で誰もが自分の考えを示し、全員の意見が慎重に検討されながらも、最終的には考え抜かれた決定が下されるように議論をまとめることは、良質なケースディスカッションの横糸となる。

 ビジネススクールの授業では、主に教員がこの協働プロセスをリードする役割を担うが、学生はケースメソッドを通じてその技術を自分のものにして、自身が実際に議論をリードする立場になった時、うまくまとめることができる。

(6)好奇心

 学生はケースを通じて、多くの異なる状況や役割に触れる。ケースによって、さまざまな業界やセクターの起業家や投資家、各部門のリーダー、あるいはCEOの役割を担うのだ。いずれのケースでも学生自身が、自分が共鳴すること、刺激になること、退屈することを見出し、みずからのキャリアにおいてどのような役割がふさわしいかを思い描く機会になる。

 ケースは、世の中に存在するさまざまなチャンスと、自分がリーダーになった時にどのような変化を生み出せるかについて、学生の好奇心を掻き立てる。そのような好奇心は、彼らの生涯を通じて大いに役立つものだ。好奇心によって、人はよりいっそう迅速に学び、適応力を高め、キャリアの幅広い可能性が広がっていく。

(7)自信

 ケーススタディでは、自分のこれまでの経験や能力を凌駕する役割になりきる必要がある。多くの場合、自分にとってまったく馴染みのない設定で、チームや組織全体のリーダーとしての役割を果たさなければならない。

「あなたがケースの主人公だったら、どうするか」というのが、ケースディスカッションで最も頻繁に投げかけられる質問だ。たとえ、それがあくまで想像の一環であり、一時的なものであったとしても、このように自分の経験や能力をはるかに「ストレッチ」する課題は、自分は困難に立ち向かうことができるという学生の自信を高める。

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