HBSのMBA課程では、2年間で500件のケースを学ぶことになっている。ケースを通じて学生が担う幅広い役割は、のちのち彼らが対処しうる状況の範囲を広げる。

 90人のクラスメートの前で発言することは、最初のうちはリスクが大きいように感じられるが、やがてはそのリスクをより快く引き受けられるようになる。厳しい選考を経て入学し、高い競争力を持つクラスメートの中でも「自分は引けを取らなかった」という経験は大きな自信になる。

 ケースディスカッションのおかげで、MBAで学ぶ前には想像もできなかった大きな役割や課題に直面した時でも、自分は対処する準備ができていると思えるようになったと語る卒業生は多い。自信とは、誰かが教えたり、コーチしたりするのは難しいが、ケースメソッドはそれを学生に植えつけることができるようだ。

 実務で繰り返される経験や、才能あるコーチによる手引きなど、このようなメタスキルを身につける方法はほかにもあるかもしれない。しかし、熟達した教員の指導の下、ケースメソッドは学生を熱中させ、別の教育方法では教えることができない強力なメタスキルを身につける助けとなる。これは1921年にケースメソッドが導入されてすぐ明らかになったことであり、現在も変わらない。

 教員と学生はこのようなメタスキルの価値を認識することで、ケースの議論を通じて達成される広範な目標を理解することができる。

 ピアノのレッスンの例に戻ろう。先生と生徒にとっては、「生徒がその楽器を上手に弾けるか」というシンプルな尺度で成功を判断するのが自然かもしれない。しかし、ピアノの指導を通じて、より広範なメタスキルを植えつけられることに関係者全員が気づき、バッハをたどたどしくしか弾けなかった人でもレッスンから生涯にわたる恩恵を得られたとすれば、ピアノの練習に対する感謝の念はいっそう深いものになるだろう。

 MBA取得者を採用する企業や組織にとって、ケースを学ぶことで得られる恒久的な恩恵を認識することは、採用候補者を評価し、彼らの潜在的なキャリアパスを想定するうえで、貴重な視点になりうる。

 ケースメソッド100周年を機に、私たちは将来に向けて、よりいっそう力強い教育方法を考えるべきなのは間違いない。一方で、ケースメソッドが植えつけるメタスキルのイノベーションを、ケース自体の習熟と同じように高く評価することも忘れてはいけない。


"What the Case Study Method Really Teaches," HBR.org, December 21, 2021.