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メタバースという言葉を頻繁に耳にするようになり、ビジネスのフロンティアを切り拓く重要なキーワードとして注目を浴びている。もちろん、それが単なる流行で終わるのか、それとも現実に大きな変化をもたらすのかを冷静に見極める必要はある。しかし、メタバースを通じて人々が望む製品・サービスが提供される時代が本当に訪れるとしたら、傍観を続けることは許されない。本稿では、現時点で実践すべき5つのポイントを提示する。


 インターネットの最新のパラダイムシフトが、すでにかなり進んでいると考える人は少なくない。すなわち、メタバースの実現が間近だと言われている。

 ある領域に投資している企業やメディアから「時代の到来」が宣言される時には、その過熱ぶりに現実が見合っているかどうか、少し立ち止まって見極めるのが合理的だ。

 しかし、もしこれが真にメタ(高次元)な――つまり人々が本当に望んでいるものが提供される時代の到来であれば、多くの企業は次のように思案しているはずだ。メタバースとは実際に何なのか、自社はそこに参入すべきなのか、と。この新たな領域をどのように進むべきかを検討しているブランドにとって、どこから始めればよいかを知ることさえ難しいかもしれない。

 メタバースの基本概念は複雑ではない。端的にいえば、永続性、没入型、3次元(3D)、バーチャルという性質を持ち、現実世界では生じないようなインターネット上のデジタル体験であれば、何であれメタバースに該当する。メタバース体験は私たちに、遊び、仕事、つながりの構築、購入などの機会をもたらす(そして愉快なことに、現実の物もバーチャルの物も買える)。

 また、モノリシック(分割されずにつながっている状態)にインターネットと接続する世界、あるいは相互運用性を持つ世界という意味で「メタバース」という言葉を用いるのは、事実と異なるため間違いだ。

 個々のバーチャル世界を形づくるエンティティは、独自のアクセス、会員制度、収益化権、創造表現の形式であり、そのためビジネスの形態も技術的仕様もさまざまに異なる。個々の世界や体験をまたがる概念がメタバースであり、かつてなく実体的で没入型の環境に身を置いているという認識を伴う。

 メタバース環境をすでに構築している事業者はわずかだが存在し、エンタテインメント会社とゲーム会社が先頭を走る。エピック・ゲームズの「フォートナイト」をはじめ、家庭用ゲーム機とPCの大型ゲームタイトルは、バーチャル環境におけるユーザーのプレーと交流を常態化させてきた。

 ロブロックスのような新興のゲームプラットフォームでは、ユーザーは没入型のゲーム世界を生成したり、他者のゲーム世界で遊んだりでき、収益化もしばしばユーザー自身によって行われる。

 ディセントラランドは全体が3Dのバーチャルな世界で、ユーザーが所有者だ。ユーザーはテーマパークや美術館といったバーチャルの建造物をつくり、訪問者に料金を請求することができる。これらはすべてイーサリアムのブロックチェーン技術で動いている。

 また、メタブイアールス(MetaVRse)やユニティといった企業は、ブランドやゲーム会社向けにAR(拡張現実)とVR(仮想現実)のコンテンツ制作を後押しするエンジンを開発している。

 なお、メタバースの没入環境はB2C企業だけに好機をもたらすわけではない。未来の外科医を訓練したり、販売担当者に製品デモを行ったりするなど、ビジネス用途はたくさんある。

 たとえば、テック企業エヌビディアの経営陣によれば、企業がメタバースに投資して生産や物流のシミュレーションを行うことで無駄が減り、より優れたビジネスソリューションが促進されるはずだという。

 また、マイクロソフトは、自社のクラウドサービスをメタバースの構成要素と位置付けている。マイクロソフト・メッシュのプラットフォームにより、チームズなどのコラボレーション環境にアバターと没入空間を取り入れることが、やがて可能になる。

 コロナ禍以降のハイブリッドやリモートの仕事環境では、このような創造的でバーチャルなビジネス体験の多くは、企業が従業員や顧客とつながるうえで、ますます重要になる可能性が高い。