●不安定な時期を利用して、長期的なキャリアプランを練る

 物事が安定して予測可能な時は、自分の将来について真剣に内省することを迫られていない。キャリアが安定していると、その時は満足かもしれないが、自分の可能性を最大限に発揮できないこともある。

 不安定であることは、長い目で見て、キャリアの敏捷性を強化するきっかけになる。考えてみてほしい。多くの人は、解雇されたり、職場環境が有害なために退職を望んだりするような危機的状況に陥ってはじめて、自分の将来について考え直す。

 そのような時、苦し紛れの決断を下してしまう前に、自分にとって必要な自己洞察力を得ることは困難だ。コントロール感と選択肢があるうちにキャリア開発に投資することで、冷静さを保ち、最善の行動を取ることができる。

 筆者のクライアントでフォーチュン100企業のバイスプレジデントは、自分を支持してくれて、信頼のおける複数の従業員が転職したことで、昇進の計画が崩れてしまった。彼女自身も他社から声がかかっていたが、再び転職市場に戻ることに強い不満を感じていた。最初は、将来について心配することなく仕事に打ち込もうと決めたが、不安定な状態を「見ないようにし、考えないようにする」ことはすぐに不可能になった。

 そこで筆者らは、この不安定な出来事を内省と自己評価のための機会にすることにした。それは、彼女が何年もやっていなかったことだ。キャリア発見のツールを使うだけでなく、彼女の状況を異なる視点から考えた。シニアバイスプレジデントになった、未来の彼女についてだ。無力感を覚え、回避的になっている現在の自分に、未来の彼女は何と言うだろうか。

 このクライアントは、もっと主要なステークホルダーとの関係を構築すべきだと思い始めた。また、外部からもたらされる機会は負担ではなく、どの企業でも自分は多大な貢献ができる証拠だととらえることにした。おそらくリードを追求しても害はなく、それにより何かをする義務もなかった。

 このエグゼクティブは、好ましくない不安定な時期に一歩引いて考えることで、コントロールできない状況によって無力になるのではなく、意識して前進するための戦略を考え出した。

 ●自分が何をすべきかではなく、どうあるべきかを明らかにする

 最近の調査では、パンデミックをきっかけに人生のパーパスを考えたという従業員が3分の2に上り、従業員の70%は自分のパーパスは仕事によって定義されるとしている。その結果、今日の求職者がいかに意識的にキャリアを築き、企業が彼らのキャリアの選択と向上の決断にどう対応すべきかについて、大きな変化が起きている。

 これまでのキャリアアップは、より多くの活動を行い、それぞれの経験で定量的な結果を出し、実績を積むことだった。それはいまも重要なことだが、あなたがどのような人間であるかではなく、何をしたかに基づいている。

 今日の変化する労働環境で成功するためには、特にパフォーマンスを鼓舞するリーダーとして、何ができるかではなく、自分がどう「あるべきか」を知る必要がある。

 フォーチュン500企業の元取締役である筆者のクライアントは、パンデミックの最中に離職した。彼は自分の価値観や、みずからの適性が役立つ分野はどこかを徹底的に探求し、起業家になりたい、それも片手間でやらないという明確な衝動に駆られた。

 単にやるべきことを増やすのではなく、起業家として成功するためにどうあるべきか、自分の存在を他の人にどう感じてもらいたいかを考えた。彼は、自分の価値観が不確実な状況で頼りになることを知っていた。それを尊重することで気分が高まり、そうしなければ疲弊したからだ。

 毎日何をすべきかではなく、どう「あるべき」かを考えることで、このクライアントは日々の変化の中でも、モチベーションとレジリエンス(再起力)を維持することができた。