●正しい方向に向かっているか

 日単位でも年単位でも、定期的に自分の現在地を確認して評価しなければ、正しい方向に向かっているかどうかを判断するのは難しい。

「新たなチャンスを探す必要など、まったくなかった。チャンスは転がり込んでくるか、向こうからやってきたので」といった類のことを口にするクライアントはたくさんいる。チャンスが転がり込んでくるのはよいことだし、ある役割に抜擢されることは自尊心をくすぐり、魅惑的でさえある。しかし、それが判断力を曇らせ、特別な意識を持たないまま場当たり的に道を進むという結果を招くこともある。

 クライアントの多く(キャリア20年以上の人が少なくない)は、こうも言う。「どうやってここまで来たのか、わからない。ただ目の前の仕事を次々に引き受けてきた。本当にいまのようになりたかったのか、確信はない」

 素晴らしいプロジェクトや仕事が目の前に現れた時、その機に乗じることは問題ない。だが、むやみに飛びついたり、見境なくおだてに乗ったりしていると、進みたいと思っていた道からは逸れていくだろう。「10年後、どのような自分になっていたいか」という問いは誰もが嫌がる質問だが、一歩引いて大きなビジョンや方向性をはっきりさせることは、後手に回らず先手を打てるよう、新しいチャンスをふるい分けるのに役立つ。

 もっと扱いやすい時間枠で、「今後3~5年の仕事として何をしたいか」と自問し、考える時間を持つのもよいだろう。あなたの望みはもっと自律すること(思い切って独立すること)、選んだ分野で専門知識を深め認められること、グローバルな責任を担うこと、あるいはそのすべてかもしれない。このように3~5年のビジョンを持つことで、そこに到達するためにどのような体験を積んでおきたいかが明らかになるだろう。

 ●いまどのような種をまく必要があるか

 3~5年の目標を実現するにせよ、より長期的なビジョンを実現するにせよ、キャリアの成功は日頃の小さな行動を積み重ねた結果として得られるものだ。筆者はその行動を「種まき」と呼ぶ。

 今日まいた種が芽を出すのは、2カ月後かもしれないし、2年後、あるいは10年後かもしれない。そして、種は「たくさん」まく必要がある。かつてグーグルが従業員に新しいことを探し試すことを奨励していた時のように、ふだんの仕事の20%の時間を自分を磨くために費やしてもよいだろう。

 筆者はパリで仕事をする(ずっとやりたかったことでもある)という国際経験を得る数年前から、週末にフランス語の講座に通い、フランス人のチューターにつき、履歴書を仏訳し、フランスで活動する米国企業をリサーチしていた。このようにさまざまな種をまいたことにより、最終的に海外勤務が実現したのである。

「小さく着実なステップがキャリアに及ぼす影響を、私たちは過小評価しがちだ」と、The Long Game(未訳)の著者ドリー・クラークは言う。「確実な見返りのないものに、たいていの人は力を注ぎたがらないという事実が、あなたに競争優位をもたらす。成功の保証がなくてもやろうという意欲があるなら、実現する可能性は高まる。なぜならライバルの数はぐっと少なくなり、注いだ努力は時間とともに蓄積されるからだ」と述べる。

 筆者がパリでの仕事を手に入れたのは、まさしくそのおかげだ。「どうやってパリで仕事ができるようになったのか」と、米国の同僚はよく羨ましそうに尋ねてきた。短い答えは、私がそれを求めたからだ。もう少し詳しく回答すると、その実現のために、数年かけてたくさんの小さな努力を積み重ねたからである。

 ●どのような人脈を構築する必要があるか

 人間関係はキャリアを成功に導く土台となる。何をするにせよ、一人ではできない。あなたの短期・中期・長期目標を達成するために、力になってくれる人は誰だろうか。既知の人もいれば、まだ出会っていない人もいるかもしれない。

 仕事に没頭していると、関係を育むことを怠りがちだ。周囲を観察する時間を取り、一歩引いて、ネットワークマップをつくり、現在の人脈の棚卸をするとよい。さまざまなレベルの知り合いをリストアップし(思い付く順でかまわない)、関係の強さにしたがい配置しよう。白い紙の中心に自分の名前を書き、つながりが強い人はより近く、つながりの弱い人はより遠くに名前を書き込むのだ。

 次に、「どこが過剰投資で、どこが過小投資か」を検討しよう。あなたはテクノロジー部門の技術者で、ネットワークの大部分が他の技術者で占められているとしよう。もしテクノロジー部門から教育部門にピボット(方向転換)したいのなら、そのために誰と会う必要があるか、あるいは旧交を温め直すべきかを考えよう。

 あなたが中間レベルの財務専門職で、いずれCFOになることを目指しているにもかかわらず、ネットワークに上級管理職の人がほとんどいないとしたら、そこがネットワーク構築の焦点になる。あなたはさまざまなCFOと公的にも私的にも関係を築きたいし、他の上級リーダーともつながりたいはずだ。目標を達成するために、どのような関係を構築し、維持し、活用したいかをはっきりさせよう。

 ご存じの通り、キャリアは直線的に進むものではなく、何年も、何十年もかけて進展し展開する。本稿で挙げた質問を自問することで、きっとあなたは成り行き任せをやめて、みずから運転席でハンドルを握るようになるだろう。そうすることで、あなたはより明確な意図を持って、あなた自身が定義する成功を確実に手に入れられるだろう。


"Ask These 5 Questions to Decide Your Next Career Move," HBR.org, January 05, 2022.