
競技ランナーのトレーニングとバリュー投資のアプローチには、ある共通点がある。どちらも「低強度80%」対「高強度20%」という二極化戦略を取り入れ、成果の最大化を狙っていることだ。ランナーは練習時間の大半を、あえて負荷をかけずに走ることに費やす。基礎体力を高めることで、怪我のリスクを軽減し、レースのパフォーマンスを最大化させることが狙いだ。これは経営管理業務にも当てはまると筆者は主張する。本稿では、このアプローチの有効性を論じ、回避すべき落とし穴についても指摘する。
筆者はバリュー株志向の投資家である。また、趣味でマラソンをしている。最近、妻からランニングクラブの会員権をプレゼントされ、この2つの世界に意外な接点があることを発見した。その結び付きに気づいたことで、マラソンへの取り組み方だけでなく、企業経営に対する理解を見直すきっかけにもなった。
ランニングクラブには、筆者のように自分の楽しみのために走る人もいれば、持久力を必要とする競技志向のアスリートもいる。レースで先頭集団からスタートするような選手たちだ。トップの選手に近いタイムでゴールする人たちでもある。
このような競技志向のグループにとって、ランニングは趣味ではない。専門のコーチングや真剣なトレーニングを必要とし、フルタイムの職業に等しい。
筆者は、競技志向のランナーに憧れ、彼らの素晴らしいパフォーマンスをいつも遠くから、驚嘆とともに眺めていた。ランニングクラブに入会したことで、彼らと並んで走り、その練習方法を間近で見ることができるようになったおかげで、とても意外な事実がわかった。
トレーニングの強度には、3つの段階があると想像してもらいたい。
・低強度:比較的ゆっくりとしたペースで楽に走る練習。ほとんど無理なくこなせる。
・中強度:苦しさを感じる程度に自分を追い込むが、フルスロットルにはほど遠い。
・高強度:自分の限界、もしくはそれに近い状態で走る。
筆者のように趣味で走るランナーは、ほとんどの場合、中強度の負荷で走る練習をしている。やりがいがあり、夢中になれる。苦しさはあるが、我慢できないほどではない。実際のレースと同等の負荷で走ることから、効率のよい練習方法に思える。昔から言われる「本番だと思って練習する」ことに、直感的に従っているのだ。
対照的に、競技ランナーの多くは、トレーニングの約80%を低強度の練習に費やしている。彼らは意図的に負荷を抑え、ほとんど何もしていないかのようにすら見える楽なペースで、基礎体力を高める練習を淡々と行っているのだ。残りの20%は、そのほとんどが高強度の練習に費やされる。これは超人的なスピードとパワーを炸裂させる、非常に集中度の高いハードなトレーニングだ。
では、中強度のトレーニングはどうか。競技ランナーのグループは、中強度の負荷をかける練習には、ほとんど時間を費やさない。エネルギーの無駄遣いだと考えているのだ。筆者も持久力の専門家がこう説明するのを聞いたことがある。「得るものが少ない割に苦痛が多すぎる」
実際、人間の持久力について研究する科学者たちは、低強度と高強度という両極の組み合わせが、深刻な怪我のリスクを軽減しながら、レースのパフォーマンスを最大化する練習方法であることを明らかにしている。
長距離走、自転車、スキー、トライアスロンでトップクラスの選手の多くが、この方法でトレーニングを行っている。この考え方は、持久力を必要とするスポーツについて書かれた有名書籍や「高強度インターバルトレーニング」(HIIT)に関する記事で取り上げられるなど、日常にも浸透しつつある。