筆者は、両極を組み合わせる持久力トレーニング方法を聞いて、すぐに有名なバリュー投資家であるウォーレン・バフェットを思い出した。
バフェットは、自身の投資アプローチを「怠惰に極めて近い嗜眠状態」だと語っている。彼はほとんどの時間を、年次報告書を読み、ビジネス誌を閲覧し、同僚や知人と話すことに費やしている。投資に関する知識基盤の構築を意識的に行っているのだが、一見すると何もしていないかのように見える。しかし、非常に稀ではあるが、彼は時として、極めて活発に巨額の投資を行うことがある。
趣味の投資家の場合、バフェットのアプローチとは対照的に、いつも「何かやっている」傾向があり、「中程度」の取引を継続的に行い、常に市場に手を出していることが調査で示されている。
最終的にどちらが勝つか、すでにおわかりだろう。
持久走とバリュー投資は、まったく異なる世界だ。しかし、どのような強度の取り組みを重視するかといえば、どちらも「低強度80%」対「高強度20%」の二極化戦略が好まれているようだ。そして、どちらの世界でも、中強度の物事はすべて意図的に回避することが求められる。
両極の強度の組み合わせがよりよい成果を生むのは、「高強度20%」だけが理由ではない。「低強度80%」の重要性がけっして低いわけではなく、単に目的が異なるにすぎない。持久走では、オーバートレーニングによる怪我を防ぎながら、スタミナをつけることができる。バリュー投資では、オーバートレードで損失を出すことなく、投資の確度を高めることができるのだ。
以上のような点について深く考えるほど、より広範な経営管理業務にも同様の考え方が当てはまると、筆者は確信している。例として、このアプローチが当てはまりそうな3分野を以下に挙げる。
・販売サイクルが長く、潜在的な見返りが大きいセールスの現場では、熟練した営業担当者が長期にわたり、意図的に「低強度の関係構築モード」を維持する傾向がある。ほとんどの場合、典型的な「ハードセル」とは対照的に、潜在顧客と積極的に関わろうとするのではなく、むしろ控えめに関わり続けようとする。中規模の商談はあえて見送り、好機を待つ。しかし、進捗が見られなかった大型商談に成立する可能性が出てきた瞬間、いっきに動き出す。このように機会は稀だが高強度の大型取引に対する努力が結実するのは、低強度の仕事を地道に続けることで徐々に築かれる信頼とコミュニケーションという関係基盤があるからこそ、だ。
・戦略的M&Aの世界でも、高い実績を上げるチームほど、経営会議で「何も報告することはありません」と言う傾向がある。同僚は不思議に思うだろう。「なぜ、このようにやる気のない人たちが、この場にいられるのだろうか」と。実際には、そのチームはモニタリング・学習・追跡にじっくりと時間をかけている。これはランニングで基礎体力をつけることに相当する。安心してほしいのだが、このようなチームも変速装置を備えており、それを時々使用する。適切な機会が訪れた時、「低強度筋」と「高強度筋」をどちらも動かすことで好成績を生み出すのだ。
・成功すれば人生が大きく変わり、失敗すれば「ゲームオーバー」になりかねない、ある種の研究開発の現場でも、同様の二極化が見られる。このようなチームは、低コストの実験や学習、工夫に多くの時間を費やしている。そして、機が熟した時は全力疾走に切り替え、実行オペレーションにいっきに移行する。繰り返しになるが、このような高強度の奮闘は、低強度の努力を何時間も重ねることで生まれる持久力なくして不可能だ。