よそ者から学ぶことが、あらゆる場面でこのような感動をもたらすわけではない。しかし、それが効果的であることに変わりはない。
いまから数年前、心疾患の治療で有名なロンドンのグレート・オーモンド・ストリート小児病院は、複雑な医療処置の流れの中で患者を「引き継ぐ」仕組みが不十分なことに悩んでいた。
そこでマーティン・エリオット心臓外科部長とアラン・ゴールドマン小児集中治療部長は、引き継ぎの組織化に長けていることで知られる、医療とは無関係の分野のプロフェッショナルに注目した──フェラーリのF1レーシングチームのピットクルーだ。
医師とピットクルーは、イタリアのレーシングセンター、イギリスGP、そして病院の手術室でともに過ごした。
するとピットクルーは、病院の引き継ぎのプロセスがぎこちないことに驚いた。また、多くの場面で明確なリーダーがいなかった(F1レースでは「ロリポップマン」と呼ばれる人物が、見えるように表示板を差し出し作業の流れを取りまとめる)。
さらに、病院のプロセスは騒々しかった。フェラーリのピットクルーは、周囲でエンジンがうなり声をあげていても(それだけうるさいからこそ)、ほぼ無言で作業を行う。
レース界では常識とされる手法を学んだおかげで、病院は引き継ぎの手順を見直し、医療ミスを激減させることができた。
よそ者から学ぶべきは、慣れない状況に対処する時や、特定の問題を解決したりする時だけではない。ディーン・エッサーマン大佐はロードアイランド州のプロビデンス警察署の署長時代、閉鎖的な警察署が独創的なアイデアや新鮮な視点、新しい考え方を積極的に受け入れるように促した。
その取り組みの一つが「警官と医者」(Cops and Docs)だ。この素晴らしいプログラムでは、ブラウン大学医学部の医師が難しい症例について議論する場にプロビデンス署の刑事が同席して、医師が患者の手がかり(症状)を分析し、証拠(検査結果)を整理して、犯人(病気)を特定する過程を見学した。
一方で、医師も警察の司令部会議を傍聴し、矛盾し錯綜する情報を警察官がどのように扱い、容疑者を次々に絞り込みながら、事件を解決する過程を学んだ。
エッサーマンが目指したのは、警察が「探求の姿勢を受け入れ、医学部のように効果的な方法論を考え出し、広める場所になること」だった。自分のやり方に固執しがちな刑事が、警察活動に関する新たな視点を習得するためには、警察とは無関係の分野の専門家に学ぶ必要があるということを、署長は理解していた。
この2年間の混乱と危機は、リーダーと組織にあらゆる疑問を投げかけた。その中で最も大きな疑問の一つは、新しいアイデアはどこを探せば見つかるのかということだ。イノベーションと問題解決の源泉が、昔ながらの時間のかかるR&D──研究(research)と開発(development)にあることは確かだ。
しかし、今日では異なる種類のR&Dがある。すなわち、模倣(rip off)と複製(duplicate)だ。組織が初めて直面した課題を理解する近道は、無関係な分野を調べて、昔からうまくいっているアイデアを探すことだ。
他分野ですでに証明されている戦略や洞察をすぐに適用できるなら、未検証の戦略や洞察にあえて賭ける必要はない。それが、世の中の変化に合わせて学び続けることを支援するために、リーダーができることである。
"To Find Creative Solutions, Look Outside Your Industry," HBR.org, February 07, 2022.