研修をやるべきか、やるべきでないか
研修のアプローチを見直す際に最も重要なのは、まず、それが必要かどうかを考えることだ。研修にリソースを投入する前に、次の3点を検討しよう。
(1)研修を通じて、どのようなギャップを埋めようとしているか
研修は基本的に、パフォーマンスや行動の理想と現実の間に相違があるから行われる。そこで解決策を探す前に、そのギャップは何かを定義しておきたい。たとえば、新しいプロセスや設備のアップグレード、ポリシーの改訂によってギャップが生じている場合は、研修を通じて組織の見解を教えることで問題を解決できるだろう。
ただし、研修を効果的に行うには、人々が研修を望んでいることが重要だ。指摘されたギャップの影響を受けていない人は、わざわざ修正しようと思わないだろう。研修の参加者には、好奇心と学習意欲が必要だ。そのような人々は注意深く耳を傾け、質問し、知識を応用する傾向が高い。
(2)ギャップの原因は何か
ギャップを特定したら、その原因を探る。すべてのギャップがパフォーマンスの問題につながるとは限らない。
たとえば、複雑すぎるワークフローは、リモートワークやハイブリッドワークをする人々の大きな懸念になっている。『ハーバード・ビジネス・レビュー』の論考によると、在宅勤務の従業員は、オフィスで働く同僚が享受しているリソースやインフラ、情報が不足しやすい。
この問題に対処するために、思いつく限りの研修を実施することはできるが、それでギャップを埋めることはできないだろう。働く人たちの知識とは関係なく存在するギャップだからだ。
多くのギャップは、コミュニケーションの断絶や職場環境の欠陥から生まれる。ギャラップが実施したある世論調査では、会社から提供されたコミュニケーションを信頼でき、時間通りで、透明性があると強く感じている回答者はわずか7%だった。
また、ギャラップの別の調査は、報酬制度を見直して従業員のエンゲージメントを向上させるほうが、管理職研修を行うよりもギャップを埋める効果が高い場合があると示唆している。
(3)ギャップを解消するために研修が必要か
研修は、たとえそれが問題解決に最適な方法だとしても、常に費用がかかる。ほとんどの場合、もっと効果的な解決策があるはずだ。
1つの例を紹介しよう。いじめ、えこひいき、チームワークの欠如といった問題を解決するための研修を希望していたゼネラルマネージャーに、HPWPのメンバーが助言した。状況を深く掘り下げたところ、上司が指導方法を理解していないのではなく、適切な人材が適切なポストに就いていないことが問題だとわかった。
そこで職務内容を変更すると、機能不全は解消された。そこに研修を重ねることで、解決法がもう少し洗練されるかもしれないが、少なくとも研修をやらなければならないという状況ではなくなった。
クリティカルシンキング(批判的思考)には時間がかかり、多忙なリーダーは時間が限られている。しかし、不必要な研修に投資すれば、それ以上のコストがかかる。正しい解決策と思えるものに飛びつく前に、問題を細分化してみよう。問題の核心に取り組むことは、常に最善のアプローチになる。