人事部の仕事も再定義し、変革する必要がある
日本でも最近、ジョブ型雇用が注目されています。ITサービス企業などが先行して導入していますが、もともとプロジェクトマネジャーやシステムエンジニアなど専門的な職種の割合が大きく、そうした職種ではスキルが明確に定義されているので、ジョブ型雇用が馴染みやすく、転職も珍しくありませんでした。ITサービス企業が事業拡大に向けてさらに専門職人材を増やすためにジョブ型雇用を導入しているのは、妥当な経営判断だといえます。
一方、ジョブ型雇用がトレンドになっているから、優秀な人材を獲得するために社員の3割はジョブ型にするといったように、数値目標ありきでジョブ型を導入するとうまくいきません。繰り返しになりますが、戦略とひも付けられた業務改革、人材要件定義、採用後の配置とキャリアパスの設計ができていなければ、専門職人材の獲得・定着は成功しません。
その点で、ソニーグループは戦略に沿った人材の定義ができている好例と見ています。たとえば、プレイステーションを核とする同社のゲーム&ネットワークサービス事業では、かつてコンソールゲームの設計・開発が中心でした。しかし、現在はネットワークゲームが主流となっており、ハードウェアの設計よりも、ソフトウェアのアップデート頻度やユーザー体験(UX)が事業成長のカギを握ります。
このため、「いつでも、どこでも」シームレスなゲーム体験を提供するという戦略に基づいて、必要な人材を再定義し、それに沿ったジョブ型雇用を導入しているのが成功要因だといえます。
事業の責任者であれば戦略は自分で立てられるでしょうし、業務改革もスタッフを使えばできるはずです。ただ、人材要件を定義して、求める人材にとって魅力的な仕事環境を整えたり、人事制度やキャリアパスを設計したりするのは人事の専門知識が必要で、事業責任者一人では難しいでしょう。そこは、事業ごとの戦略を理解して、人事面からそれを支援する人事のスペシャリストの存在が欠かせません。
日本企業では長らく、人材の一括採用と配置が人事部の主要な仕事だと考えられてきました。異動を差配する人事権を握るがゆえに、人事部が出世コースとなっている企業も少なくありませんでした。しかし、これからは事業部門の目線で、戦略の実行を人事面から支援するスペシャリスト集団に変革していく必要があります。
このような人事の仕事の再定義や人事部の改革は、CEOがリードすべき経営課題であり、事業責任者が主導できるものではありません。それでも、事業責任者はビジネスモデルを変革したり、新規事業を軌道に乗せたりするミッションを遂行しなくてはなりません。
その際の有力な現実解となるのが、企業本体とは切り離した別組織、いわゆる「出島」をつくることです。出島において実行すべき戦略を立て、それに沿った人材要件を定義し、仕事の環境と人事制度を整備するのです。
アクセンチュアではこれまで、複数の大手企業と合弁会社の形で出島をつくり、専門職人材の獲得と育成を行ってきました。たとえば、KDDIとはARISE analyticsというデータサイエンスを専門とする会社を立ち上げました。
この会社では、アクセンチュア出身者とKDDI出身者が一緒に働きながら、データサイエンティストとしてのスキルの移植を図ると同時に、新たな人材を外部からどんどん採用しています。KDDIからは、「自社単独ではできなかったデジタル人材の育成ができており、データドリブン経営の定着による事業効果も出ている」と評価いただいています。すでに、ARISE analyticsで新たなスキルを身につけた人材が、KDDIのプロジェクトに参画し活躍しているケースも多々あります。
こういった事例からも、全社的な事業戦略と結び付けた人材獲得・育成を意識し、外部人材に選ばれる企業に変わることが、DXやSDGs対応を加速させるうえで非常に重要なファクターになっているということをおわかりいただけるかと思います。