●現実的かつポジティブな未来を想像する

 3年前、筆者が主宰するレジリエンスセミナーに、環境問題を専門とする世界トップクラスの弁護士が参加した。参加者全員に事前のアンケートを実施し、「未来はきっと、いまよりよくなっている」という文章に対して、賛同する程度を答えてもらった。

 レジリエンスを培ううえで希望が大切だという話をしていると、彼女はこう言った。「疑う余地がなく、未来がいまより悪くなっていることを証明するデータをお見せしましょう」。そして、目に涙を浮かべながら、気候変動によって取り返しのつかない破滅的な未来に向かっている世界で、希望を持ち続けることへの自身の葛藤を語ったのだ。

 よりよい未来を想像できなければ、希望を持つことはできない。何を想像するかは、感情にも身体にも影響を与える。

 アスリートは、自分が素晴らしいパフォーマンスをしている姿を繰り返し鮮明にイメージすることによって、実際に身体パフォーマンスに有意義な影響が及ぼされるという経験をしている。反対に、暗い未来を繰り返し鮮明にイメージすると、パフォーマンスや気分、さらには生理機能にまで悪影響が及ぶ。

 ポジティブな未来像の欠如と抑うつには関連性があり、強いネガティブイメージに侵されることとPTSD(心的外傷後ストレス障害)にも関連性がある。この先訪れるかどうかすらわからない未来のために、感情や身体が犠牲になっているのだ。

 そこで、暗い未来に囚われないように、恐怖や不安ではなく、自分自身にエネルギーやモチベーションを与えてくれる、別の現実的な未来を意識的に想像することが欠かせない。

 第1に、自分が現時点で想像している未来と、そのようなイメージから喚起される感情を書き出そう。「在宅勤務をしている」といった一般的表現ではなく、「来年もまだ、自宅の寝室でリモートワークをしている」というように、自分が持っているイメージを具体的に描くのだ。人のインターナルステート(内面状態)は、一般的なアイデアではなく、具体的なイメージに最も大きな影響を受けることが多い。

 私たちは、自分自身の抱いているイメージや、それが内面に与える影響を完全に意識しているわけではない。まずそれらを具体化し、目に見える形にすることが最初のステップだ。これは、最悪のシナリオを鮮明にイメージすることで、その影響力を奪うという、ストア哲学のネガティブ・ビジュアライゼーションに似ている。

 第2に、今後2年にわたり物事がうまくいっている状態を想像し、その未来から自分宛にハガキを送る。どのような暮らしを送っているか、仕事ではどのようなことが起きているか、私生活はどうか、具体的に書き出す。

 その時に重要なのは、「物事がうまくいっていたら、自分はどこにいるか」を問うことである。その答えは、楽観的であると同時に現実的でなくてはならない。

 第3に、その未来に立ってみる。自分が描いた未来にいる自分自身を、鮮明にイメージする。周囲の人とどのような会話をしているか、自分はどのような気分なのかを想像する。その未来像の中に、できるだけ多くの感覚を取り込む。

 たとえば、愛する人を抱き締めた時の肌触りや、昇進が決まって握手を交わした時の手触りだ。イメージが鮮明であればあるほど、インターナルステートにより直接的な影響を及ぼすことが、研究で示されている。