政治、立場、倫理
ビジネスと政治の境界線は、多くの人が望むほど明確でないのが常である。とはいえ経営者はいまや、自社の倫理的立場だけでなく、提携相手(または提携する国)の政治にも正当性を見出す必要がある。そして、動きの遅い企業は代償を払うことになる。
たとえば、マクドナルドの店舗はフランチャイズ加盟者によって運営されているが、ロシアとウクライナでは大半が直営店だ。マクドナルドは侵攻後最初の2週間、ほぼ完全に沈黙を続けていた。その後、ロシアでの販売を停止してボイコットするよう求める声の拡大に応じる形で、行動を起こすことが迫られた。
撤退する企業が相次ぐ中、一時は多数の企業に向けられていた世論と政治の圧力が、残留を続ける少数の企業に対していっそう強くなり、レピュテーションリスクの増大を招いている。撤退には先行者利益があるように、後発者の不利益もあるのだ。
政治的な出来事や危機が生じると、企業は非常に短期的な思考へと傾く場合が多い。しかし、備えができていない企業は、残留か撤退かをめぐる戦略上の計算を誤ると、数年から数十年にわたる損害を被りかねない。
ウクライナに対するロシアの行為が、企業の撤退を正当化するのに十分であれば、もっとひどい人権侵害と残虐行為を行っている政権下の国々で事業を展開する企業にとって、これは何を意味するのだろうか。
経営者は海外事業を検討する際、2つの重要な問いを自問しなければならない。
第1に、自社がその国から撤退する条件は何だろうか。その国の政治が自社の政治的立場と相容れない場合は、特にこの点を考えよう。さらに、他国の制裁や法的義務の範疇を超えて、自主的に行動を起こす意思がどれほどあるだろうか。
その答えは、業界によって大いに異なるかもしれない。たとえば金融サービス企業は、巨額の費用を費やしてデューデリジェンスを実施済みのため、事業の継続から撤退に移行することは、工場や小売店を持つ企業よりもはるかに単純で済む。
第2に、再参入の条件と見込みはどうだろうか。ウクライナとロシアの紛争は比較的短期間で終わるという予想もあるが、隣国に侵攻した独裁政権に関する研究では、その逆が示されている。プーチンは退陣するよりも権力を維持し、自国への影響に関係なく戦争を継続する可能性が――紛争の激しさは和らぐにしても――はるかに高い。
企業の目標が単なる事業運営であれば、その結果がレピュテーションと業績に厳しい影響を及ぼすことを受け入れなくてはならない。企業の目標が倫理的な事業運営であれば、和平を何よりも優先しなければならない。
これが実質的に意味するのは、ESG(環境、社会、ガバナンス)の評価者にとって、ある企業が社会的に許容しがたい政治体制の国で事業を展開し、その会社のESGスコアで「社会」の項目が高く評価されている場合、それを正当化するのがますます難しくなるということだ。進出先の政治が戦争犯罪法廷に直結しかねない場合は、なおさらである。