今後の制裁措置に向け、準備はできているか

 ロシアで投資と事業を行う企業の大半にとって、ウクライナへの侵攻は悲劇だが、完全なる不測の事態でもなかった。

 2014年のウクライナ・クリミア半島侵攻時に事業を展開していた企業は、特にそうだろう。ビジネスリーダーは、ロシアでの事業に伴うリスクを理解しており、過去に行われてきた侵攻と恐ろしい人権侵害を目の当たりにしてきた。

 それでもなお、ロシアの再侵攻に備えてコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)を策定していた企業でさえも、あらゆることの変化の速さに驚かされた。その一因は、通常の制裁は時間をかけて、中身を伴わないか抜け穴が多い形で実施されるのに対し、今回の制裁は迅速かつ厳しいものであり、企業は素早い意思決定を迫られたからだ。これは企業が学ぶべき先例となった。

 ロシアによるウクライナ侵攻は、制裁措置に伴う企業の役割を変えた。最も顕著な点として、多くの企業は、政府が求める範囲を大きく超えて、自主的な制裁、制限、撤退に踏み切った。

 しかし、それ以上に重要な点として、このような対応は、非難されるべき人権侵害を行う他国で事業を展開する企業にとって、事業運営に関する新たなアプローチの例となることが挙げられる。ロシアとロシア市場から撤退する企業は、自社のステークホルダーたちの声に耳を傾け、顧客の考えと価値観に事業慣行を合致させようとしているのだ。

 ロシアによる侵攻がどのように解決されても、ビジネスリーダーは自社を取り巻く世界が変わったことを理解しなければならない。投資家と企業は、「すばらしい新世界」にいかなる戦略とモデルを用いるべきか見直す必要がある。ある国への参入は、その国の政治行動を暗黙のうちに受け入れる行為と見なされるのだ。

 経営者にとっての課題は、ロシアの影響に備えるだけでなく、国際秩序を破壊して、紛争を引き起こす次なる国に対し、堅実かつ責任ある戦略を立てることだ。その可能性がある国を認識し、後戻りできなくなる前に行動を起こす――それこそが、社会的責任を果たす企業として称賛されるか、完全に回収不能な損失を生むリスクを冒すかの違いにつながるのだ。


"In Light of Russia Sanctions, Consider Your Conditions for Doing Business in Other Countries," HBR.org, March 15, 2022.