DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)の最新号(2022年6月号)の特集では、「パーパス経営」を取り上げました。パーパス経営において重要なのは、人材の持つ可能性を信じ、「個を活かす」という姿勢で組織の仕組みをつくることです。情報化時代の始まりからこの手の議論はありましたが、デジタル化が進みコラボレーションの重要性が高まるにつれて、ますます大切な論点となっています。リクルートの事例から考えます。
ノートンと3Mの明暗を分けた
情報に対する認識
本誌ではHBRの過去論文の中から、価値ある論文を新訳で紹介する「HBR Classics」というコーナーを設けています。今号は、クリストファー A. バートレットとスマントラ・ゴシャール両氏による「システムを超えて――人材の時代」を掲載しました。
この論考は、1994年から1995年にかけて「経営者の役割が変わる」というテーマで掲載された3部作の第3作です。経営者は、マネジメントのコントロールツールやそのシステムの導入に目がむきがちですが、組織の人材を重視し、知識やアイデアを活かした経営をすべきだと説いています。
その中で、ノートン・コーポレーションと3Mという競合2社に焦点が当てられます。ノートンは、最先端のツールやシステムを導入し続けたにもかかわらず、他の企業に吸収合併されて消滅しました。
一方、3Mはそのシステムが洗練されていたわけではなかったのですが、「人材重視の起業家精神を体現する企業」と評されたマネジメントを行い、その後も成長を続けました。
何が両者の明暗を分けたのでしょうか。筆者らは「情報とはけっして、生命を持たない永遠の存在ではなく、活力に満ちた移ろいやすいものである」と指摘します。どうやら、情報の捉え方にその違いがあったようです。
情報化時代においては、ビジネスの最前線にいる人材が知識や知恵、専門性を有しており、本社の上層部よりも現場の人々のほうが、移ろいやすい情報から新たな価値を引き出すことができます。
論文では、リーダーの役目とは「より効率的なデータ処理システムの設計ではなく、人々が情報をより効果的に活用するための環境づくりである」と喝破し、対人コミュニケーションを通じた情報共有の重要性を説いています。