『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』の最新号(2022年7月号)の特集は、「顧客体験を変える」です。コロナ禍によりデジタル化が進み、客観的には測れない主観の価値がますます重要となる中で、テクノロジーを活用して顧客体験を変革するタイミングが訪れています。

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ウェルビーイングの価値

 DHBRでは毎月、ポッドキャスト番組『DHBR Fireside Chat』を配信しています。起業家や研究者、宗教家など多彩なゲストをお招きし、ホストである華道家の山崎繭加さんとの対話を通じて、豊かな人生を送るヒントを提供しています。

 最新回のゲストは、経営者の北川拓也さんです。

 北川さんは、ハーバード大学で理論物理の研究を行い、その後、楽天常務執行役員 CDO(チーフ・データ・オフィサー)として、データ・AI分野の戦略立案や組織開発の中核を担ってきました。

 現在は、公益財団法人Well-being for Planet Earth 理事として、ウェルビーイングの社会実装について新たな事業の構想を深めています。

 北川さんは、ウェルビーイングをどうとらえているのでしょうか。山崎さんのそんな問いかけに、「長期的に積み立てる資産形成」と表現します。

 売ったり買ったりすることが簡単にできるものではなく、20年、30年かけて積み上げていくもの。具体的には「体の健康、精神の健康、お金の積み立て方、人間関係のつくり方、キャリアの積み方」などが含まれるといいます。

 人生におけるウェルビーイングの重要性は、言うまでもありません。それにもかかわらず、ことお金以外においては、インターネットビジネスが苦手とする領域だというのです。

 北川さんは、検索サービスを例に説明します。グーグルのキーワード検索の利用者は、3ワード以内で検索する人がほとんどです。目当ての商品を見つけるならそれで十分かもしれませんが、「自分の健康をよくしたい」と思って検索しても、3ワード以内で自分にぴったり合う情報やサービスが見つかることは稀でしょう。

 北川さんは、DHBRのインタビューにおいても、「お金のような単一の指標では測れない複雑さそれ自体に価値があると考えることができませんか」と述べています。

 AI・データに詳しい北川さんがお金で測れる客観的な価値から、人間の持つ主観的な価値へとますます関心を寄せていることからも、時代の大きな変化を感じます。