「なりたい自分になれる」
支援型ビジネスの可能性
さて、コロナ禍の長期化により、消費者の意識や行動が変化し、デジタル化が加速しています。やや専門的ですが、デジタル化の進展は「消費者余剰」をもたらします。
消費者余剰とは、消費者が支払ってもよいと考える価格と、実際に支払う価格との差です。わかりやすく言えば、「お得感」や「追加の幸福度」と呼べるものです。
デジタル化した製品・サービスは、コストをかけずに複製できます。固定費用と限界費用が下がることで、価格が減少し消費者余剰が膨らむのです。
顧客からするとたとえば、月額1000円で映画が見放題のオンラインサービスを利用するほうが、毎月DVDを何本も借りるためにレンタルショップに出向くよりも便利で、お得感を覚えるはずです。
入山章栄・早稲田大学ビジネススクール教授は、IT批評家の尾原和啓さんとの対談で「『これだけコストがかかっていて、これだけの価値があるから、これだけ払ってね』という時代は完全に終了ですよね。みんなそこにお金を払わないから」と述べます。さらに、「特に若い方は、費用対効果はもうどうでもよくて、応援したいかどうかなんですよね」と共感の価値を強調します。
つまり、デジタル化の進展は、消費者余剰の増加をもたらし、費用対効果で測れる価値よりも、測定しにくい主観的な価値の重要性を高めているのです。
顧客の立場に立てば、単に費用対効果のよい商品・サービスよりも、長期の資産形成に役立つものに価値を見出すことになるでしょう。
たとえば、今後「なりたいと思う自分になれる」という支援型のビジネスが勢いを増すのではないでしょうか。そのためには、テクノロジーを活用して、より顧客起点にビジネスを考える必要があるのです。
今号のDHBRの特集は「顧客体験を変える」です。
特集の概要については「顧客の変化をとらえ、個客の成功をデザインする」をご覧ください。コロナ禍を経て、次の時代に向かういまこそ、顧客体験を考え直すタイミングです。
(編集長・小島健志)