『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)の最新2022年7月号は「顧客体験を変える」です。コロナ禍が長期化し、消費者の考え方や行動に変化が生じています。一方、テクノロジー化が加速しているいま、顧客体験を見直すタイミングが訪れています。

顧客の変化をとらえ
個客の成功をデザインする

 今号の特集は「顧客体験を変える」です。コロナ禍の長期化とデジタル化の加速に伴い、顧客体験を見直すタイミングが訪れています。

 第1論文「顧客とともに顧客の『なりたい自分』を実現する」の筆者陣には、B.ジョセフ・パイン2世とジェームズ H.ギルモアが名を連ねます。両者は1999年に「経験経済」を提唱しました。

 企業(および経済)の生み出す付加価値は、(1)コモディティ販売から、(2)製品製造へ、そして(3)サービス提供、(4)体験の演出へと、その段階が上がるにつれて高まることを指摘したのです。

 しかしながら、そのサービスや体験すらもコモディティ化の波が押し寄せています。筆者らはそこで「顧客の成功に焦点を当てよ」と述べます。顧客がなりたい自分を実現するように、顧客体験をカスタマイズする。

 それが最終段階である(5)「トランスフォーメーション」(変革)です。企業のゴールは顧客の成功にあり、その変革を支援するため顧客体験をデザインし直す時なのです。

 第2論文は「顧客体験はAIの力で進化する」です。AI(人工知能)を用いた顧客体験のパーソナライゼーションは、あらゆる業界で企業戦略の中核に置かれています。

 これまでは、大量のデータを取得・分析する能力を持つ大手テック企業に話が限られてきましたが、これからは違います。AIを顧客体験に活かす事例から、企業が顧客体験を進化させる方法をお伝えします。

 第3論文は「D2Cブランドが成長し続けるための4つの原則」です。消費者と直接取引する「D2C」は、マーケティングの定説を覆した革新的なビジネスモデルだと喝采を浴びました。

 しかし、そのモデルにも綻びが生じています。ハーバード・ビジネス・スクールのV. カストゥーリ・ランガン教授ら、マーケティング界の重鎮がD2Cのモデルを考察し、その限界への処方箋を述べます。

 第4論文は、マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパンのパートナーらによる「日本企業のビジネスモデルを顧客起点に転換する方法」です。コロナ禍の長期化により、消費者の考え方や行動が大きく変化しました。

 そのような中で成功しているのは、積極的なオンラインとオフラインの融合(OMO)に取り組み、顧客起点で事業を展開している企業です。顧客起点にビジネスを変えるとはどのようなことか。日本企業が変革するための戦略を伝えます。

 第5論文は、ベイン・アンド・カンパニーの筆者陣による「ネット・プロモーター3.0」です。「我が社は顧客起点で考えているのだ」といくら訴えても、何らかの指標がなければ、外部の理解を得るのは困難です。

 そこで顧客ロイヤルティの測定指標「NPS」(ネット・プロモーター・スコア)を提唱したフレッド・ライクヘルドらが、その弱点を補い、財務視点を取り入れた新たな指標を提案します。HBRの代表論文に贈られる、マッキンゼー賞最終候補作(2021年)となった名論文です。

 6本目は、長谷川敦レゴジャパン代表へのインタビュー記事「理想のレゴ体験は子どもを育み、ビジネスにも成長をもたらす」です。

 レゴには大切にする価値があります。それが「Learning through Play」(遊びを通じた学び)です。子どもの年齢に応じた正しいカスタマージャーニーを提供することで、レゴはその価値を浸透させて子どもの成長に寄与します。時代に応じて顧客体験を変えながらも、レゴは変わらない価値を追求しています。

 このように、組織やチームが顧客の変化をとらえ、「個客」の成功をデザインし、その意志をもって顧客体験を変える時です。

 ぜひ今号がビジネス変革のヒントになれば幸いです。

(編集長・小島健志)