挑戦の機会が個を成長させる

 果たして出井氏が遺したものとは、何だったのでしょうか。

 DHBRでは、出井氏がドラッカーの言葉「世界が歴史の境界を越える時、社会と政治が変わる。新しい現実が始まる」に勇気づけられたというエピソードを2006年2月号で紹介しています。

 出井氏はインターネット時代を迎えた当時、新しい現実に立ち向かい、多様な事業を起こしました。別の記事でも「新しい現実と向き合うこととは、次のルールの本質を探ることにほかならないのです。そのような意味でも、私は変化を愉しんでいます」と語っています。

 その後、四半世紀余りを経て、ソニーの中核を担う人材が次々と頭角を表しました。出井氏の功績の一つは、当時の有望な中堅・若手人材に「自由闊達にして愉快なる」挑戦の機会を与え、個の成長を導いたことなのかもしれません。

 さて、今号の特集「できる人が辞める会社 活きる会社」では、「大退職時代」と呼ばれる現代において、才能やスキルを持つ有能な社員をつなぎ留め、活かす方法について論じます。

 コロナ禍を経て迎えた新しい現実に、私たちはどう向き合うか。安部氏の論考も含めてぜひご一読いただければ幸いです。

(編集長・小島健志)