
自社ブランドのエクイティや価値を守り抜こうとしても、プーチン大統領がロロ・ピアーナのジャケットを着用したり、ISISがトヨタの車を使用したりするなど、個人や組織のネガティブな印象とブランドイメージが結び付けられたら、それらは瞬く間に棄損される。このような想定外のリスクに直面した時、経営者やマーケターはどのように対処すべきなのか。本稿では、4つのリスク緩和策を紹介する。
ブランドエクイティとブランド価値を守ることは、経営者が果たすべき重要な責務の一つだ。たとえば、問題のあるパブリッシャーやエンドーサーによって、自社のブランドがネガティブに表現されることを防ぐために、企業は保護ソフトウェアを購入したり、ブラックリストを作成したりする。
しかし、マーケターのコントロールが及ばない環境で、自社のブランドが好ましくない形でさらされたら、どうなるだろうか。
イタリアのロロ・ピアーナ――高級品を扱うコングロマリット(複合企業)LVMHの傘下ブランド――は2022年3月18日、まさにこの問題に直面した。不評判で悲劇的なウクライナ侵攻を祝う集会の映像がロシア国営テレビで放送された時、ウラジーミル・プーチン大統領が、1万4000ドルで販売されているロロ・ピアーナのフード付きダウンジャケットを着用していたのだ。
集会の映像を見ていた一般の人々によってジャケットが特定され、ロロ・ピアーナはプーチンへの非難をすぐ表明しなかったという理由から、ソーシャルメディアで激しい批判にさらされた。
ロシアの状況には特有の深刻さがあるとはいえ、スキャンダルや悲劇に見舞われた著名人やイベントやセレブリティから自社の製品が突如として連想されることは、企業にとって珍しい事態ではない。過去の事象に関する筆者らの研究を踏まえると、企業はまず3つのことを自問する必要がある。
・そのような事態からいかなるリスクが生じるのか。
・批判を和らげるために、自社にできることは何か。
・似た状況でブランドが長期的影響を被ったことがあれば、どのような影響か。
本稿では、著名人から想定外の連想をされることで、ブランドに悪影響がもたらされると判明した時、取るべき対策をいくつか提示したい。
過去の研究では、セレブリティによるエンドースメントは売上げのみならず、株式リターンにも影響を及ぼす可能性があることが示された。その理由は、さほど意外ではない。消費者はセルフイメージに見合うブランドを選択する。そして、人気が高く著名なロールモデルがブランドを連想させることで、ブランドとセルフイメージの比較検討が容易になるのだ。
あるブランドに対してネガティブな連想が形成された場合、その状態が長く続けば続くほど、ブランドと問題のある人物との間に、消費者がそのような連想をするリスクが高まる。
このような連想をされる例は多い。2011年に77人を殺害したノルウェーのテロリスト、アンネシュ・ベーリング・ブレイビクは、ラコステのセーターを着た姿を少なくとも2回、カメラに映し出されている。
ISISのプロパガンダ動画では、トヨタ自動車のピックアップトラックとSUVが、目立つ形で何度も登場している様子が確認されている。
バーバリーは暴力的なサッカーファンたちの間で流行した。伝統的なチェック柄が理由のようだ。「ザ・バーバリー・ボーイズ」と名乗る集団は、サンダーランドで行われたイングランド対トルコの試合で敵チームのファンを襲撃した時、特徴的なバーバリー柄のベースボールキャップを被っていた。これを受けて、英国のパブとタクシー運転手は2000年代初期、バーバリーを着用した客を断るようになった。
ボクシングと総合格闘技に特化した英スポーツブランドのロンズデールは、2000年代初期、ドイツでスキンヘッドの人物やネオナチの間で着用される機会が増加した。