テストケース
筆者らはパンデミックの最中、この方法を用いて、HSBCのリーダーシップ開発プログラムを刷新した。それはまさに、業務プロセスも戦略的な優先事項も変化している時期であった。
新しいプログラムの参加者は、事業部門と機能部門のシニアエグゼクティブ90人だ。従来は4日間の対面式プログラムとフォローアップを実施していたが、それを11週間のラーニングジャーニーに変更し、3つの経路について学んだ。
●センスメイキング
1~4週目は、講師主導で洞察について中心に学ぶ構成で実施した。
「変革に最高の自分を持ち込む」「知識と行動のギャップを埋める」といったテーマの基調講演をグループ全体にライブ配信し、後から誰でも視聴できるよう録画も行った。対面式に比べるとやや活気に乏しいかもしれないが、基本的に一方通行の情報伝達ながら、最後に短い質疑応答の時間を設けたこともあり、それほどデメリットは感じなかった。
各講義の後は、20~25人のグループに分かれて、バーチャルでセンスメイキングのディスカッションを行った。事前に各グループのファシリテーターを集め、講義をどのようにレビューし、会話を組み立てるかについて話し合った。少人数のグループだったが、創造的かつ発散的な思考を実践するには十分な人数だった。
講義の翌日は、講師が各グループを順番に回り、円卓会議形式のディスカッションを行った。ある参加者は、このような対話は実際に会ったほうがうまくいくかもしれないと述べた(「ズーム会議では、集合的センスメイキングにつながるアハモーメントがめったに起きません」)。しかし、入念な計画と熟練したファシリテーターのおかげで、すべての参加者が有意義な形で討論に貢献できた。
パンデミック前のオフィスでの会議では、ほとんど発言しなかった内向的なエグゼクティブが、チャットやバーチャルな挙手機能を活用して、貴重な貢献をすることも多かった。さらに、地理的に分散するリーダーをオンラインで集結させることでコストを削減でき、ロジスティクスが簡略化され、よりタイムリーかつ定期的にセッションを開催しやすくなる。
●実験
次に、実験の組み立て方のガイダンスを行い、参加者は5~8週目に試してみたい実験のアイデアを出した。
自分のチームのやり方を具体的に変える(たとえば、社内手続きを簡素化する、社外の顧客と新しい交流法を試す)といった「ビジネス実験」もあった。また、自分の行動を意識的に変える(たとえば、会議の進め方やフィードバックの方法を変える)ような「リーダーシップ実験」の実施を検討した参加者もいた。
純粋にバーチャルな環境の場合、この実験という段階は複雑な結果をもたらした。デザイン思考のワークショップをバーチャルで行ったり、週1回メールの送受信を停止して集中的に仕事をする環境をつくったりするなど、いくつかの実験はオンラインで簡単に行うことができた。
一方で、会議のフローを変えて双方向性を高めるなど、より社会性の強い実験は難しかった。センスメイキングと同様に、質の高い実験も対面のほうが効果的かもしれない。それでも複数の参加者が、実験を重視することで、「本業」に戻っても関心を持ち続けることができたと述べている。
●自己発見
最後のフェーズとなる9~11週目は、3~5人のグループごとに担当のコーチとバーチャルで週2回、自分の働き方への影響など、実験から学んだことを振り返りながら共有した。コーチは1対1のフォローアップも行った。
プログラムを締めくくるこれらのディスカッションでは、リーダーが自分で自分のじゃまをしていることについて、また、リーダーシップの有効性が低い振る舞いに逆戻りしないために、どのような習慣が必要になるか話し合った。
いくつかの疑問点も出たが、最後のセッションは驚くほどうまくいった。「直接会ったことがない人と打ち解けることができました」と、ある参加者は語った。「以前は対面にこだわっていたが、動画によるコーチングの質の高さには目を見張るものがありました」
プログラム終了後に実施したアンケートによると、対面という要素がなかったにもかかわらず、大多数の参加者がこのプログラムに価値を見出し、HSBCにとって有意義な投資になったと考えていた。「変化の激しい環境でコラボレーションを促進し、変化を起こすために最良の方法です」「革新的なことに挑戦する自信を与えてくれました」といったコメントが寄せられた。