食を通じたウェルビーイングを実現するプラットフォーム
――食を通じたウェルビーイングの実現を考えた場合、ヘルスケアデータの把握から献立の検討、食材の購入、調理、食事、食後の満足度や健康状態といったジャーニー全体で、食体験の価値を高める必要がありますね。
宮尾 ジャーニー全体を通して一貫性と高い価値のある食体験を提供するには、ヘルスケアデバイスメーカー、ヘルスケアサービスの提供者、食品メーカー、流通業者、レシピサービスの提供者など、バリューチェーンに関わる多様なステークホルダーが協働して、データによって健康状態や食体験を可視化し、パーソナライズされた食サービスを実現していく必要があります。
アクセンチュアではそれを、「フードマネジメント・プラットフォーム」の構築と呼んでいます。
たとえば、糖質オフやグルテンフリーなどの個別の食ニーズに応じて、体調管理、家計管理などのサービスがつながり、パーソナライズされた食事メニューを提案、食材を発注・補充する。スマートフォンやウェアラブル機器、スマートスピーカーなど多様なデバイスが連携してデータをモニタリングすると同時に、それらのデバイスを通じてサービスが提供されるといったイメージです。
IoTでつながった冷蔵庫や調理器具などのキッチンハードウェアは、プラットフォームとデータをやり取りし、必要な食材を自動発注したり、プラットフォームから送られてきたレシピに合わせて料理を自動調理したりします。
このようなプラットフォームを構築できれば、企業は社内外のデータを組み合わせた分析やアルゴリズムの作成が可能になり、イノベーションを加速させることができます。食体験に留まらず、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上に関わるさまざまな領域にビジネスチャンスが広がるでしょう。
フードマネジメント・プラットフォームは、食にまつわるあらゆるデータが整備・可視化され、複数企業がAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)でつながらなければ実現しません。
現状では、ウェアラブルデバイスで取得したバイタルデータ、キッチンハードウェアのデータ、食品の栄養素のデータなどは、個々のプレーヤーがばらばらに持っています。それらがAPIでつながれば、サービスの価値や市場規模が乗数で広がる「APIエコノミー」ともいうべきエコシステムが生まれます。
数多くのステークホルダーが関わるだけに容易なことではありませんが、フードマネジメント・プラットフォームを構築するためのテクノロジーは揃いつつあります。食体験の向上によるウェルビーイングの実現という大きな目標に向かって、ステークホルダーが小異を捨てて大同につくことが、日本の社会課題解決につながるはずです。