レジリエンスの取り組みを導くために、リーダーが自問すべき3つの問い
落とし穴がどのようなものか、それが自分のチームや会社の中でどれほど蔓延しているのかを理解したら、従業員によるレジリエンスの発揮を支援する方法の見直しに取りかかることができる。ここでは、自社独自の歴史とニーズに照らして3つの問いを立て、答える必要がある。
問い1:困難自体を軽減または排除できるのか
従業員のレジリエンスにどう取り組むかを決める前に、困難そのものに組織が対処できるのか否かを見極めることが重要だ。
この問いへの答えがノーであれば、従業員のレジリエンス対策への情報提供と支援に重点を置くのが理に適っている。たとえば、ある従業員に生じた予期せぬ介護の役割について、リーダーが根本原因を解決することはできない。しかし、有給休暇、フレックス勤務制度、支援的なマネジャーなどは、レジリエンスの向上を支援できる組織的リソースだ。
レジリエンスを支援する環境を築くには、従業員の必要に応じて個別の支援を提供することが求められるかもしれない。困難だがやりがいのある新任務に就いた従業員に、特別な研修を実施するなどだ。効果的な支援を行うには、従業員が何に苦労しているのか、困難を乗り越えるために何が必要かを尋ねることが求められる。
虐待的な職場風土、非現実的な仕事量、給与の不平等などがある場合、すなわち問いへの答えがイエスであれば、組織はその状況に伴う従業員のレジリエンスの必要性を減らすよう注力すべきだ。たとえば過酷な仕事量という問題に対して考えられる組織的対応は、仕事量の是正、人員の増強、負担の増加と引き換えに報酬を上げるなどだ。
組織的な意思決定に起因する、あるいは組織の意思決定によって対処が可能になる困難を是正するのは、簡単ではないかもしれないが、従業員の成功と健康への投資となるはずだ。このアプローチによって、従業員は避けられない困難を乗り越えるためのリソースを節約できるため、バーンアウトの軽減にもつながる。
問い2:すべての従業員が、この困難を同じ形で体験しているのか
レジリエンスの取り組みを策定する中で、従業員のアイデンティティ、職位や在職期間によって困難に差があるのか否かを検討することは重要だ。
たとえば、パンデミックが特別な困難をもたらしたのは、(子どものいない人々よりも)親、(金融資産をより多く持つ人々よりも)社会経済的地位が低いグループ、(重症化のリスクが低い人々よりも)高齢者および基礎疾患を持つ人々、(コロナ禍と人種的不公平を同時に体験していない人々よりも)人種的・民族的マイノリティである。
このような体験の違いを無視したレジリエンスの取り組みは、一部の従業員にしか効果がない。困難の影響を見極めるために、アンケートやフォーカスグループを通じて従業員の意見を求めるのは、費用対効果と効率に優れたやり方の一つだ。的を絞った対応が可能となり、「自分の意見に耳が傾けられる」という従業員体験の向上にもなる。
したがって、この問いへの答えがノーであれば、レジリエンスの取り組みでは異なるグループに向けた個別のプログラムを取り入れ、異なる体験とニーズを踏まえた個人向けのリソースを提供すべきだ。
一例として、暴力の標的にされている黒人の姿を見た黒人従業員たちが、それを我が事のように感じてしまう人種的トラウマについて考えてみよう。この出来事の後で、エンゲージメントを回復してもらい、彼らの精神的消耗に対処する上で有効となるのは、こうした独特のストレス要因について理解し、人種差別に対抗するための具体的なリソースを設けることだ。たとえば、黒人従業員のリソースグループや、職場での人種的マイクロアグレッション(無自覚な差別的言動)に対処するための組織的対策などである。
アイデンティティを考慮したこのアプローチは、レジリエンスのプログラムが包摂的であり、かつ困難に対処している人々にも役立つよう万全を期すための一助となる。
問い2への答えがイエスであれば、困難そのものに特化した一連のリソースと推奨事項を含む、より一般的なレジリエンスの取り組みを策定するのが妥当かもしれない。
一例として、ヘルスケアなど特定の業界では、すべての従業員が直面する、よく知られた想定可能な困難がいくつかある。たとえば、患者の家族で不満を募らせている人への対応や、患者の死への対処である。研修を通じて、これらの体験について現職者に伝え、レジリエンス支援のリソースを事前に提供すれば、全員にとって効果的だろう。
問い3:従業員のレジリエンスを支援する中で、自分はどのような役割を果たせるのか
従業員のレジリエンスを支援する中で、リーダーが積極的な役割を果たすことは可能かつ必須である。リーダーシップを幻想化する傾向(よい結果も悪い結果も、責任をすべてリーダー個人に帰す傾向)は存在するものの、リーダーは実際に、組織の文化と規範を形成し、レジリエンスの責任を共有する環境の醸成において重要な役割を果たすのだ。
この問いに答えるため、リーダーは次の点を振り返る必要がある。
・従業員のレジリエンスを支援するために提供できるリソースは何か。会社の負担によるセラピーの提供、有給休暇、従業員リソースグループを編成して彼らの意見を採り入れる、従業員が報復を恐れずに懸念とニーズを表明できる職場環境の構築、などが含まれる。
・どのような行動様式に対して見返りを提供するのか。これは、リーダーが何を重視しているのか、部下に何を優先してほしいのかを示すシグナルとなる。助けを求めるといった特定の行動への支援だけでなく、失敗からの学習に報いる文化の醸成も含まれる。従業員の意見と学びを後押しする文化を築くことで、レジリエンスの能力が高まる。
・どのような種類の便宜措置を提供するのか。これは、困難によって従業員の成果の内容やタイミングが変わりうることを理解しているシグナルとなる。従業員は人間であり、ロボットではない。困難を理解した上で個人とチームへの期待を調整することは、従業員の人間性を尊重しながらレジリエンス支援の環境を築くことにつながる。
・従業員のさまざまな感情を受け入れる余地を、どうつくるか。困難のさなかでもポジティブな感情のみを持つべき、という期待を設定するのは特に避けよう。同様に有害なのは、大きな困難に対して感情的な反応をすべきではない、という期待だ。困難な状況下でも影響を受けていないように振る舞うことを暗示的または明示的に求めると、従業員は自分の中のリソースを、目の前の困難の克服ではなく印象管理に費やすことを強いられる。健全な感情表現を後押しすることは、従業員の人間性を受け入れる一環でもある。
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限界はあるにせよ、組織は従業員へのレジリエンスの奨励を続けるべきである。どのような仕事にもストレス要因となりやすい業務はあるため、あらゆるキャリアステージ、職位、職種においてレジリエンスは必要だ。
私たちはレジリエンスを発揮している時、個人的にも仕事においても効果を体験する。したがってレジリエンスを完全に断念するよりも、改善する試みのほうが有益だ。レジリエンスの取り組みを廃止すれば、苦境に直面している従業員は、現在と今後の困難に対処するための対策と支援が不足したままになりかねない。
従業員にとって、困難な体験に対する反応を自分で、少なくとも部分的にコントロールできると知ることは、自信につながる。ただし、全体像を認識することも重要だ。組織とリーダーは、従業員のレジリエンスの体験と結果を方向付ける力と影響力を持っている。効果的かつ持続的なレジリエンスの取り組みは、レジリエンスの責任が共有されている場合にのみ実現する。
"What Leaders Get Wrong About Resilience," HBR.org, June 17, 2022.