慈悲的性差別はジェンダーに関する
有害な思い込みを補強する

 次のような状況を想像してもらいたい。あなたが率いるITチームで、ネットワークシステム管理者のポジションが空席になった。その後任として、あなたは比較的新しいチームメンバーであるアンジェリーナの抜擢を検討している。

 コリンは気が進まない様子だった。アンジェリーナは「周囲の気が散るほど魅力的」なので、男性ばかりのチームで尊敬を得られないだろうと言うのだ。あからさまな性差別発言を聞いて、ジェイコブは「コリン、そのような発言をすべきではない」と声を上げた。「アンジェリーナの容姿と、彼女がこの仕事に見合う資質を持っているかどうかは関係ない。チームのいまの雰囲気が、彼女にとって耐えられないかもしれないことは確かかもしれないが」

 ジェイコブがコリンの性差別的な発言を批判したことは正しい。しかし、その後の発言で、結局はコリンと同じ趣旨の内容、すなわちアンジェリーナの昇進に反対であることを伝えている。自分はアンジェリーナが気持ちよく働けるかどうかを気にかけているのだと、ポジティブな表現で言い換えているにすぎない。ジェイコブはアンジェリーナを困難から守ろうとしているかもしれないが、実際には慈悲的性差別を行っているのだ。

 これと似たような状況で、ジェイコブのように性差別に声を上げたい人は、自分が示した反応は一見するとポジティブだが、実のところ、ジェンダーに関する3つの暗黙の誤解を助長していないか熟考すべきである。

 誤解(1)男性には女性の面倒を見る責任がある

 この誤解は、男性が女性を守り養うべきだという考えと、女性には男性からの保護とサポートが必要だという2つの考えに起因する。ドアを開けたり、金銭管理を行ったりするなどの求められていない手助けは、善意に基づく行動だと思えるかもしれないが、女性は脆い存在で、能力が劣り、人生やキャリアに関する決断を自分で下せない、あるいは下すべきでないというパターナリズム的な行動である。

例:小さな子どもがいる女性に、目立つプロジェクトや困難を伴う国際的な仕事を任せない。

 誤解(2)男性と女性は異なり、相互補完的な関係である

 これは、男性と女性は社会において、それぞれが明確な責任や役割を担うことが当然だという思い込みだ。女性は男性より他人を思いやることができるので、家族やコミュニティやチームの世話をすべきという考えとして表れることもある。一見すると無害で、女性を褒めているようにすら感じられるかもしれないが、歴史的に家庭外での女性の機会を制限し、職場で支援的な役割を担わせる要因になっている。

例:女性には営業職よりも人事職が向いていると示唆する。

 誤解(3)男性の私生活には女性が必要だ

 これは、男性は女性のパートナーがいなければ不完全だという考え方だ。男性には女性が必要だと強調する一方、社会における女性の主たる役割は、男性の愛情に応えたり、親密な関係を築いたりすることだという思い込みがある。女性は職場でさえ独立した人間として価値を持たず、究極的には性的な対象物として捉えている。

例:女性同僚の容姿を褒めて「ご主人は幸せ者ですね」と発言する。

慈悲的性差別は至る所で見られる

 このような考えを露骨に表明すれば、多くの反発を受けるに違いない。たいていの人がこのような思考を内面化しており、自分や他人の発言にそれが埋め込まれていることに気づきにくいのである。

 筆者らは、さまざまな職層の男性が職場で性差別的発言にいつ、どのように声を上げているか調べるために、23個の文章を用意して、自分がどの表現を使う可能性が高いかを尋ねた。その結果、「女性をもっとしっかり守るよう同僚に伝えておく」「男性は女性より扱いにくいから」など、4つの慈悲的性差別を含む発言を選択した男性が29〜74%を占めた(割合に幅があるのは国の違いによる)。

 このグループの男性についてより詳しく調査したところ、驚くべきことに、自分は職場において女性の強力なサポーターだと自認する男性でさえ、このパターンが当てはまったのだ。慈悲的性差別を含む発言をする可能性が高い男性の割合は、以下の通りである。

・性差別と戦うという強い決意を持つ男性の40~82%。
・自分には性差別と戦うだけの能力があると強く自負する男性の33~82%。
・性差別と戦うことは個人にも社会にも恩恵をもたらすと認識する男性の39~84%。

 また、性差別に最も直接的に声を上げる男性、すなわち皮肉やユーモアを交えて間接的に介入したり、何もせず受け身に徹したりすることがない男性でも、慈悲的性差別を含む発言で応じる人が37~78%に上った。

 憂慮すべきことに、世界のどの地域においても、会社の上層に行くほど慈悲的性差別を交えた反応を示す男性の割合が増えた。彼らは組織のシニアリーダーとして、自分がサポートを試みる女性たちにダメージを与えているだけでなく、他のマネジャーに有害な振る舞いの模範を示している。