
多くの企業がダイバーシティ重視の姿勢を打ち出し、多様な人材を採用しようと躍起になっている。その前提にあるのが、これまでにない斬新なアイデアをもたらされることで、新たなイノベーションが生まれ、ひいては自社の業績にもポジティブな影響が出るというレトリックだ。しかし、ダイバーシティとはそもそも公平性の問題であり、ビジネス上の理由を掲げても逆効果だと筆者らは指摘する。そのようなコミュニケーションは、リプレゼンテーション(ある集団にジェンダーや人種などの代表が存在することやその割合)の乏しい集団の求職者を惹きつけるどころか、むしろ不安や懸念を与えてしまい、企業に対する関心を低下させてしまうからだ。本稿では、最新研究の結果から、多様な人材を惹きつけるためにダイバーシティ支持の姿勢をどのように伝えるべきかを論じる。
イノベーションやレジリエンス(再起力)、インテグリティ(誠実性)といったコアバリューがなぜ重要なのか。組織の大半は、その理由を説明する必要性を感じていない。だが、ダイバーシティに関しては、多様な人材を採用する価値を退屈なほど長い文字や言葉にして正当化することが、米国をはじめとする世界の企業で一般的になっている。
たとえば、製薬大手アストラゼネカのウェブサイトでは、「イノベーションには斬新なアイデアが必要だ。それは多様な人材からしか生まれない」として、ダイバーシティがビジネスにもたらす利益を唱えている。一方、ヘルスケアサービスのテネット・ヘルスケアは、それと逆に、道徳的な価値を説く。同社の行動規範には「私たちがダイバーシティを支持するのは、それが私たちの文化であり、正しいことだからだ」とある。
このような声明は、無害に見えるかもしれない。だが、筆者らの調査では、組織がダイバーシティをどのように説明するかかが、ダイバーシティ目標の達成そのものに大きな影響を与えることが示唆されている。
筆者らは6つの研究を通じて、ダイバーシティに関する企業のコミュニケーションの中で、どのようなタイプのレトリックが広く使われているのかを明らかにした。また、そのようなナラティブが「リプレゼンテーション(ある集団にジェンダーや人種などの代表が存在することやその割合)の乏しい集団の求職者を惹きつける」という意味で、どの程度有効かがわかった。
第1の研究では、フォーチュン500企業すべてのウェブサイト、ダイバーシティ報告書、ブログからテキストを収集し、機械学習アルゴリズムを用いて、各社のナラティブを以下の2つのいずれかに分類した。
・ダイバーシティを拡大すべき「ビジネス上の理由」:企業の業績に恩恵があるという理由で、職場におけるダイバーシティ拡大を正当化するレトリック。
・ダイバーシティを拡大すべき「公平性の理由」:公正性や機会の平等といった道徳的な理由に基づき、ダイバーシティ拡大を正当化するレトリック。
その結果、約80%という大多数の組織が、ビジネス上の理由からダイバーシティの重要性を説いていることが明らかになった。これに対して、公平性を理由にしている組織は5%未満だった。それ以外の組織は、ダイバーシティを自社の価値観として挙げていないか、ダイバーシティを自社の価値観として挙げているが、なぜそれが組織にとって重要なのか特段の理由を示していなかった。