では、組織はどう対処すればよいのか。筆者らの研究では、公平性の理由に基づいてダイバーシティを支持する(ダイバーシティの拡大自体を目的とし、道具化しない)ことは、ビジネス上の理由を唱えるよりも、ずっと有害性が低いことが示されている。具体的には、ビジネス上の理由がもたらすネガティブな影響が半減していた。

 だが、よりシンプルかつ優れた方法がある。それは、ダイバーシティに取り組む理由をいっさい示さないことだ。

 筆者らの研究では、ビジネス上の理由を挙げるメッセージを読んだ被験者よりも、公平性の理由を掲げたメッセージを読んだ被験者のほうが、当該の企業に対してポジティブな印象を抱いたが、そのレベルは、中立的なメッセージを読んだ被験者のほうがずっと高かった。つまり、何らかの説明を加えることなく、ダイバーシティを重視していることを示すと、もっともポジティブな印象を与えられるということになる。

 今回の発見を企業の経営幹部に話すと、正当化する理由なくダイバーシティの取り組みに言及して、もし「なぜ」と聞かれたどうすればよいのかと、心配されることが時としてある。そう考えるのは理解できる。ビジネス上の理由が、ほかの何よりも優先されることがごく当たり前になっている世界では、なおさらだろう。

 だが、これにはシンプルな答えがある。リプレゼンテーションが十分ある集団が、本人の専門性を超えて職場に存在することについては、特段の説明が必要とされないのだから、リプレゼンテーションに乏しい集団のプレゼンスを職場に確保するのにも理由は必要ないはずだ。

 直感に反するかもしれないが、ダイバーシティの正当性をわざわざ主張することは、それがたとえ道徳的な理由に基づくものであっても、ダイバーシティの重視が議論の的になっていると示唆することになる。イノベーションやレジリエンスやインテグリティの価値を説明する必要がないならば、ダイバーシティも同じように扱うべきではないだろうか。

 

“Stop Making the Business Case for Diversity,” HBR.org, June 15, 2022.