なぜ戦略は難しいのか

 戦略を扱う仕事は難しい。戦略をめぐる重大な局面のほとんどは、意思決定をめぐる局面に比べて、はるかに複雑だからだ。すなわち、筆者が言うところの「ねじ曲がった」状況であり、簡単に解決することはできない。

 ねじ曲がった状況では、わかりやすい選択肢や行動の機会は見えない。むしろ、複数の問題が存在し、それぞれの重要性に対する評価は経営幹部によって異なるだろう。これらの問題の根底にある要因やロジックも、すぐには明らかにならない。また、考えられる行動と現実世界の結果の間に、明確なつながりがあるわけでもない。

 戦略とは選択だと、よくいわれる。しかし、ねじ曲がった状況では、誰も代わりの選択肢を与えてはくれない。自分で選択肢を探して設計したり、想像したりしなければならないのだ。侵攻するか封鎖するか、ある会社を買収するかしないかといった明確な選択肢が用意されている場合もあるが、そのような選択肢の多くは、近視眼的な関係者や既得権益を持つ当事者が人為的に限定したものだ。そして、ほとんどの場合、進むべき道はほかにある。

 最も差し迫った課題が、組織そのものに関する問題だという場合もある。部門間の連携がうまくいっていなかったり、よりよいパフォーマンスを発揮しようにも構造的な障害があったりするかもしれない。戦略とは、単に競争に関することだけではない。組織の問題が重要であれば、そこに真の戦略が必要になる。

 複数のねじ曲がった問題を考える際には、優れた戦略家が発揮する3つのスキルが交差する「最重要地点」がカギを握る。

 1つ目は、どの課題が本当に重要で、どの課題が副次的なものかを判断するスキルだ。2つ目は、異なる課題について、対処の可能性を判断するスキルである。3つ目は集中力で、一度にすべてをやろうとせず、リソースを薄く広げすぎないスキルを指す。

 これら3つの原則を組み合わせることによって、最重要地点を見極めることができる。つまり、一連の課題のうち、対処可能で、一貫した行動に注力することで解決できる可能性が高く、かつ最も重要な部分を特定できる。

 最重要地点の考え方が有効なのは、さまざまな力を協調させて、ある特定のターゲットに力をそそぐことができるからだ。力が弱ければ、何も起こらない。力が強くても、複数のターゲットに分散してしまえば、効果的なことは起こらないだろう。間違ったターゲットに力が注がれた場合も、やはり効果はない。しかし、エネルギーが正しいターゲットに集中した時、ブレークスルーが起きる。