戦略ファウンドリー
上級幹部が集まり、一定の時間をかけて課題を検討し、最重要地点に落とし込み、実際の解決につなげる一貫した行動を考えるところから、真の戦略が生まれる。筆者はこのようなワークショップを「戦略ファウンドリー」と呼んでいる。名前はさておき、この活動を財務レビューや予算編成のサイクルから切り離すことが重要だ。
戦略ファウンドリーでは通常、技術や社会、購買者行動、法律、競争、そして実際に達成しつつある結果について、その変化を検証することから始める。そのうえで、過去のプロジェクトの成功例と失敗例を振り返り、参加者が組織の強みと弱みを再認識することが有効である。
戦略ファウンドリーを機能させるカギは、業績目標のような最終的な状態にこだわるのではなく、課題に向き合ってコミットメントすることだ。もちろん、願望や野心を明確にすることも重要だが、戦略を練るには、障壁や障害、問題など、立ちはだかる課題に意識を集中させる必要がある。そのため、「目標」ではなく「課題」という言葉を使うことだ。
戦略ファウンドリーの2つ目のカギは、時間だ。集団として問題解決に全面的に取り組むには、最低でも2日、たいてい3日はかかる。まず、参加者がそれぞれ支持する計画や要点をいっきに提示したうえで、状況がいかにねじ曲がっているか、それぞれ認識を高めていく。
具体的なプロセスとしては、最初に10件以上の課題リストを作成する。既存のプロジェクトを振り返り、そこで解決しようとしている課題を検討することによって、課題を追加する場合もあるだろう。しかし、慣れてくると、課題を絞り込む必要性を理解して、リストの数が減る。
10~25件の課題が並ぶリストは、1つか2つのターゲットに絞り込まなければ役立たない。「テーブルの上のものを減らす」プロセスが、戦略ファウンドリーの核心である。そのためには、リストに挙げられた課題について、それぞれの重要性と対処可能性を徹底的に評価することが欠かせない。
対処可能だと確信するには、近い将来(通常は12~24カ月)に、その課題を大きく進展させる方法が必要になる。進展させることが難しい場合には、課題を構成要素に分けるか、いったん脇に置く。優れた戦略は、一連の目標に取り組みながら、一つひとつ克服していくことができる。無駄な戦いはしないのだ。
戦略ファウンドリーで立案する戦略は、長期的ビジョンではない。最重要課題を克服するための行動計画だ。長期的に思える課題でも、行動計画はいますぐ実行できるものでなければならない。そうでなければ、何も起こらないだろう。
多くの問題をかき分け、1つか2つの問題を優先させる中では、自分が支持するプロジェクトやイニシアティブが後回しにされて、いら立つ人が出るのも当然だ。しかし、重要なものとそこまで重要ではないものを区別しなければ、組織は矛盾する複数の方針や行動に、たえず振り回されることになる。
「課題に直面したら、すぐに真のダイナミックな戦略を生み出す」というスピードの価値を経営陣が理解するようになれば、今回は選ばれなかったプロジェクトが次回の最重要地点の候補になることに気づくだろう。
経営幹部の多くは、戦略の表向きの顔を気にする。従業員や投資家は、組織の基本目標や優先事項が公に説明されることを期待するようになったからだ。この要求に応えるために、戦略立案チームは、選択した方針と行動が対外的にどう見えるかという点にも時間を費やさなければならない。
その際には、「目標」や「ゴール」といった言葉は避け、「重要な課題」あるいは「緊急のタスク」といった言葉で語るのが賢明だ。戦略文書がすべての重要なことに言及していて、クリスマスツリーの下に各関係者それぞれに贈るプレゼントが置いてあるかのような印象を与えたくはないだろう。これまでの慣習を捨てることになるかもしれないが、捨てるべきものもあるのだ。
効果的な戦略とは、何が決定的に重要かを語ることである。誰もがやっていること、あるいは誰もがやりたいと思っていることを、すべて語ることではない。
"Build a Strategy that Addresses Your Gnarliest Challenges," HBR.org, June 23, 2022.





