
企業経営において「戦略」という言葉を聞かない日はない。しかし、その多くは説得力に乏しく、鋭い分析と具体的な行動が欠けていると、筆者は指摘する。戦略とは、自社の最重要課題を克服するための行動計画であることを理解しなければ、単なる願望や野心、あるいは長期的ビジョンを並べたリストに終わってしまう。本稿では、目の前の複雑な状況下で「戦略ファウンドリー」を機能させ、さまざまな課題の中から最も重要な課題を特定して、具体的な行動計画を立案する方法を論じる。
戦略とは、願望や野心のリストではない
先日、あるCEOから、彼の会社の戦略を検討する前に「秘密保持契約書」へのサインを求められた。彼のアシスタントが差し出したフォルダには「戦略」「配布禁止」と記されていた。パワーポイントのスライドのプリントアウトが22ページ。その大半は会社のミッションと価値観、最近の業績の要約だった。戦略については、次の要点が挙げられていた。
・業界の成長分野に投資する。
・サプライチェーンの改善を続ける。
・EBIT(利払前税引前利益)を30%以上増やす。
・主要製品のバージョンアップを行う。
これを読んで、なぜ秘密なのだろうかと思った。具体的な数値目標を除けば、プリントアウトして「企業戦略のひな型」として販売できそうな内容だった。このCEOと取締役会は、なぜこんな陳腐なものを「戦略」として受け入れたのだろうか。
企業や政府が打ち出す「戦略」はその多くが説得力に乏しく、鋭い分析と具体的な行動が欠けている。その原因は社会的なハーディング現象だ。周囲の行動を観察して自分の考えや行動を決める群集心理である。
たとえば、薬物使用や肥満につながるような振る舞いは、あたかも伝染病のように地理的に広がることが、研究で明らかになっている。また、インターネットが戦略立案を任された人々対して、戦略とは名ばかりの陳腐な言葉の羅列を無数に提供するのもハーディング現象が影響している。
この傾向に対抗するには、みずから積極的に戦わなければならない。そのためにはまず、戦略とは本当のところ、何であるのかを理解する必要がある。戦略を意味する「ストラテジー」(strategy)という言葉のルーツはかなり古い。語源であるギリシャ語の「ストラテゴイ」(strategoi)は、軍司令官を意味する。
戦略の本質は、重要な課題や機会に対応するために必要な行動をデザインすることにある。チェスであれ、戦争であれ、ビジネスであれ、政治であれ、基本的な考え方は、最大の効果を得られる場所、つまり敵や相手の弱点や、利益を得るチャンスが最も大きい場所に、エネルギーとリソースを集中させることだ。
戦略とは、願望や野心のリストではない。委員会のメンバーがよいアイデアだと思うことを書き連ねたものでもない。効果的な戦略とは、具体的な課題を克服することを目的とした協調的行動のデザインである。