
大きな決断を迫られた時、私たちは不安や恐怖を感じがちだ。しかし、不快な感情から少しでも早く離れたいからと、拙速に物事を進めようとすれば、誤った決断を招きかねない。優れた意思決定を行うには、そのような感情を敵だと見なして逃れるのではなく、いったん距離を置き、離れた場所から見つめ直すことが欠かせない。そうすることで、真に解決すべき問題は何かを見極め、意思決定を正しい方向に導くことができるからだ。本稿では、感情を味方につけ、正しい決断を下すための4つのステップを紹介する。
不快な感情から逃げようとして誤った決断をする
筆者は最近、コーネル大学で優れた意思決定に関する基調講演を行う機会があった。講演を始めるにあたって、まずは約2000人の聴衆に対して、大きな決断を前にした時に「自分が間違いを犯すのではないか」と心配になることがあるかどうか尋ねてみた。その結果、実に出席者の92%が「イエス」と答えたのである。
そこで、どのような間違いを犯すことが心配なのか、該当する単語を1つか2つ、挙げてもらった。さまざまな表現があったが、最も多かったのは、私たちが勘や直観に頼りすぎてしまうことを示すものだった。
参加者が特に心配していたのは、自分たちがあまりにも拙速に物事を進めようとする点だ。具体的には「軽率」「性急」「衝動的」、そして「感情的な意思決定」といった言葉が挙がった。
これほど多くの人が、物事を焦って決めて失敗することを心配しているのに、なぜそうしてしまうのか。
人間は、困難で複雑な決断を迫られると、感情も同様に困難で複雑なものになる。多くの人は、そのような不快な感情から離れたいと思い、すぐに決断を下そうとする。これが、しばしば誤った決断を招くことになる。
その決断が目の前の問題を真に解決することはなく、さらに嫌な気分になることが多い。ネガティブな感情から逃れようと軽率な判断を下すことで、さらにネガティブな感情を抱くという、非生産的なループに陥るのだ。
自分の感情といったん距離を置き、離れた場所からその感情を見つめ直すことは、よりよい意思決定の秘密兵器になりうる。そのために必要なのは2つのシンプルなプロセス、すなわち(1)決断を迫られた時に自分がどのような感情を抱くか、そして(2)自分の決断を振り返った時にどのような感情を持っていたいかを見極めることだ。
これらの質問に答える時、何が見えるか。決断の結果に満足することで、あなたの人生はどれだけよりよいものになるだろうか。
本稿で紹介するエクササイズは、4つのステップから成る。私たちの「思考」つまり「ウィザード脳」(wizard brain)が、私たちの「感情」つまり「トカゲ脳」(lizard brain)を認識し、そこに注意を向けることで、衝動的に選択をすることを防ぐものだ。その仕組みを以下に紹介しよう。