(3)決断が成功した時に、自分がどのように感じるかを視覚化する
決断に成功した時の自分を想像してみる。どのような気持ちだろうか。それは達成感か、安堵感か。未来の方向性がより明確になったか。キャリアの向上や人間関係の強化につながったか。
チャーリーは、共同創業者を雇うことを想像した時、意思決定権を誰かと共有することで対立が生じるのではないかという心配が原因で、自分が不快感を覚えることに気づいた。相手のことを知っていれば信頼できると考えたが、究極的には、自分が長年夢を見て、汗を流してきたビジョンの所有権を誰かと共有したくはなかった。
その不快感に目を向けたことが、チャーリーの大きな気づきにつながった。実は、それはずっと前から感じていたことだったのだ。
(4)「感情のブックエンディング」を応用する
最初に何を決断すべきか明確にし、その決断についてどのような感情を抱いているかを見極め、決断が成功した時にどのような感情を抱くか認識できたならば、次は、そもそも何を決断すべきか、自分が正しく認識していたかどうかを検証する。
チャーリーは感情のブックエンディングを用いて、自分の感情と距離を置くことにより、行き詰まっているように感じたのは、複数の決断を混同していたためであることに気づいた。彼が下すべき決断は、共同創業者を雇うかどうかではなく、自分のビジネスの所有権を誰かと共有したいかどうかだった。自社にないビジネス面の才覚を補うには、自分の周囲に存在するスタートアップの多くがしているように、パートナーを迎え入れなければならないと思い込んでいたのだ。
だが、彼は感情のブックエンディングのエクササイズを通じて、会社が必要とするビジネス面の才覚を得るには、共同創業者を雇う以外にも方法があることに気づいた。直属の経営幹部やコンサルタントを雇うこともできるのだ。
ビジネス上の決断は短期的なものだが、経営権を共有するのは長期的な決断だ。チャーリーはこの2つを混同していただけでなく、共同経営者を持つことの長期的な意味合いもよく考えていなかった。
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私たちは、意思決定プロセスにじっくり向き合う時間はないと考えてしまう。大きな決断を下す時は、不安やフラストレーションといった不快な感情から早く逃れたいと思いがちだ。複雑な判断は感情、そしてトカゲ脳に委ねてしまったほうが簡単に済むと感じることもある。
思考、つまりウィザード脳を目覚めさせることは魔法のように聞こえるかもしれないが、そのようなことはない。ただし、スピードを落として「トカゲを見つける」という難しい作業を行う必要がある。つまり、自分の感情に名前をつけ、それを理解するのだ。ウィザード脳を呼び覚ませば、感情に振り回されるのではなく、感情とパートナーシップを築くことができる。
感情のブックエンディングを行えば、自分の感情を隠したり、そこから逃げ出したりするのではなく、自分の感情に名前をつけて、受け入れられるようになる。そうすることで、真に決断すべきものは何かを見極め、実際にその決断を下すことができる。それこそが、明瞭さと自信を持って未来に進むことを助けてくれる正しい決断だ。
"Emotions Aren't the Enemy of Good Decision-Making," HBR.org, September 09, 2022.