(1)自分が何を決断しなくてはいけないかを特定する
やっかいな問題を解決しようとする時は、自分の感情だけでなく、相反する情報を整理しなければならないことが多い。そこで最初にやるべきは、何を決断しなくてはいけないかを明確にすることだ。
チャーリーの例を紹介しよう。博士課程で研究を進める傍ら、聴力を改善する技術を開発した彼はいま、神経生物学のスタートアップでCEOを務めている。自分の発明に関することであれば、情熱も知識もたっぷりあるが、ビジネスの経験はない。しかし、経営者である以上、ビジネスに関する重要な決断を下す必要がある。
製品を世に出すには、調達した資金をどう使うのが最善か。実用最小限の製品(MVP)の開発とテストには、どのくらい投資すべきか。創業間もないスタートアップが、追加の資金調達をどのように行うか。
同社の出資者は、早く臨床試験を終わらせて、パイロットプログラムで製品をテストすることを望んでいる。チャーリーに言わせれば、そのタイムラインは非常に短いが、投資家の要望には応えたいと思っている。
アドバイザーや投資家の一部は、経営に明るいパートナーを見つけるべきだと迫っている。したがって、チャーリーが下すべき決断は、ビジネスの経験がある共同創業者を雇って、これらの問題にともに対処すべきかどうかだ。
(2)目の前の決断について、自分がどう感じているかを見極める
大きな決断を下そうとする時、自分がどのような感情を抱いているかを考える。どのような感情に支配されているのか。それは、恐怖や不安か。あるいは、圧倒されている感覚か。もしかすると、目の前のチャンスに興奮しているのかもしれない。それらの感情は、過去の経験や別の情報源に基づくものだろうか。
自分の感情に名前をつけると、感情と行動の間に少し距離を置くことができる。距離があると、感情を客観的に見つめ、自分が感じていることを認められるようになる。そうなれば、感情に引っ張られることなく、意識的に思考することで、当事者意識を持つことができる。
チャーリーは自分の製品の将来性を心から信じており、その素晴らしい技術が世界の人々の役に立つ未来を見たいと思っている。にもかかわらず、行き詰まりを感じ、この決断をどのように進めていけばよいかわからない。
彼は、他のステークホルダーについても、不安とためらいを感じている。投資家やアドバイザーの助言には、相反するものも多い。ビジネス志向のパートナーを連れてくるように強く求める人もいれば、チャーリーがさらに上手に時間を使えば、ビジネス面についても自分で対応できるはずだと主張する人もいる。
自分の感情から距離を置き、自分が抱いているのは「行き詰まっている」という感覚だと特定できたことは、チャーリーにとって大きな転機になった。感情に名前をつけ、距離を置いたことで、彼はCEOとして、まったく行き詰まってはいないことに気づいた。行き詰まっているという感覚の原因は、意思決定者が自分しかいないということだった。
また、「行き詰まった」という言葉が適切でないこともわかった。チャーリーが感じていたのは「抵抗」だった。筆者が、抵抗は感情ではなく、心理的な反応であることを伝えると、彼はさらに自己分析を進めることができた。チャーリーが本当に感じていたのは「不快感」だったのだ。
チャーリーにとって、それは驚きの発見だった。いまでは、自分が何に不快感を抱いているのかを探ることができる。