Daniel Liévano

地球温暖化の進行を遅らせ、気候変動を少しでも緩和すべく、二酸化炭素排出量や水の消費量の削減をはじめ、さまざまな取り組みが進められている。一方で、たとえ気候変動が激化したとしても、人や動物、植物が生き延びることができるようにする「気候適応」にも同様に取り組むことが欠かせないと、筆者らは指摘する。むしろ気候適応策にこそ、多くの事業機会を見出せる可能性があるというのだ。すでにいくつかの取り組みが始まっているが、本稿では「水と農業」「建設と不動産」の分野から、注目すべきプロジェクトを紹介する。

リスクに直面している、あらゆる場所が対象になる

 世界中の企業が、気候変動の緩和策をさらに推し進めている。地球温暖化の進行を遅らせ、環境生態系を保護するために、事業やサプライチェーンにおける二酸化炭素排出量や水の消費量を削減することを約束している。

 しかし、これらの努力は必要不可欠ではあるものの、未来の状況が悪化するのを防ぐだけで、すでに織り込み済みとなった被害がもたらす必然的な結末に対処するものではない。

 たとえば、カーボンオフセットはいまだに、大気への有意義な効果を実証できておらず、世界的な炭素隔離の取り組みも、現時点では世界の年間炭素排出量の1%しか削減できていないと報じられている。

 したがって、気候変動が激化しても人や動物、植物が生き延びることができるようにする「気候適応」も同様に、優先すべき喫緊の課題であると筆者らは考えている。

 気候変動問題などについて調査・助言を行っている非営利団体「クライメート・ポリシー・イニシアチブ」(CPI)の2021年のリポートによると、気候関連投資のうち、気候適応の取り組みに対する投資は7%にすぎず、洪水や山火事の防止、レジリエントな農業、清潔な水の供給、インフラの改良、人々の再定住など、幅広い領域に振り分けられている。

 気候適応に対する事業投資には大きな価値がある。特に資本支出を抑え、短期間で投資回収することができるからだ。実際、『ブルームバーグ』の報道によれば、バンク・オブ・アメリカのアナリストが気候適応市場は今後5年以内に年間2兆ドル規模に達すると予想している。

 気候適応とは基本的に、組織や制度の慣行、インフラ、技術を最も必要とされる場所で進化させることだ。洪水や海面上昇、干ばつ、熱波をはじめ、さまざまなリスクに直面している場所のすべてが、その対象になる。

 筆者らは、異常気象の早期警報システム、防潮堤、海水淡水化や廃水処理、垂直農法や水耕栽培、冷却・断熱システムの改善、3Dプリントやモジュール式の住宅など、低コストで有効性が実証されており、即効性のある解決策を提唱している。

 再保険大手のスイス・リーは、2050年までに地球の気温が3.2度上昇すると、世界のGDPの18%が損失すると警告している。しかし、OECD(経済協力開発機構)の2つの研究指摘しているように、気候適応への対策が拡大すれば、特にG20の経済成長にポジティブな影響を与えることができる。

 政府、資本市場の投資家、金融機関、そして多国籍企業から小規模企業までが協力し合い、気候変動の緩和だけでなく、気候変動に対するレジリエンスの向上に取り組めば、世界経済はより強固なものになるだろう。

 そのような取り組みは、すでに始まっている。たとえば、120社以上の企業やその他のステークホルダーで構成され、資産20兆ドルを超える「コーリション・フォー・クライメート・レジリエント・インベストメント」(CCRI)では、今後予想される気候の影響に耐えうるインフラ強化に焦点を当てたパイロットプロジェクトを立ち上げている。他の分野でも、積極的な動きが見られる。

 本稿では「水と農業」「建設と不動産」の分野から、注目すべきプロジェクトを紹介する。