建設と不動産

 建物、道路、各種インフラ等が整備された建造環境を構築することは、気候変動の主要な要因であり、気候適応においても重要分野となる必要がある。全世界で200兆ドル規模にも上る不動産資産は、立地が固定していることから、自然災害やリソース不足の影響を非常に受けやすい。そして、地理とテクノロジーが交差する場所に、多くの機会がある。

 たとえば、オランダ、デンマーク、モルディブ、シンガポールでは、開発業者や自治体が、潮の満ち引きに合わせて動き、海水を淡水化して水耕栽培に再利用できる水上都市の計画や建設を行っている。

 グーグルの研究機関「X」を率いるアストロ・テラーは、気候の影響に対処するために、いつか「移動可能な都市」も必要になるかもしれないと述べている。その第一歩として、アイコンなどの企業は3Dプリンターで造る住宅を開発している。

 同社の建設システム「バルカン」は、国際建築基準(IBC)の要件を満たす最大3000平方フィートの住宅や構造物を建造する。モルタルや鉄筋などで補強しながらコンクリートを積み上げて造る標準的なコンクリートメーソンリーユニット(CMU)と同程度かそれ以上の耐久性が期待でき、異常気象に対してよりレジリエントだ。

 この種の製品として米国で初めて販売されたのが、アイコンの建設システムであり、同社の企業評価額は現在、約20億ドルに上る。米国の大手住宅メーカーのレナーと共同で、すべて3Dプリントで造られた住宅のコミュニティを、オースティンに建設する予定だ。アイコンはメキシコと米国でも、3Dプリント住宅のコミュニティや兵舎、NASA向けに火星の模擬住宅を建設している。

 同様に、ブクルックが製造しているのは組み立て式の住宅で、スカンスカが設計・施工し、イケアが販売している。この住宅は、気候への影響が比較的少ない北欧産の持続可能な木材を主に使用しており、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、英国で約1万4000棟が建設されている。気候適応を重視する同社の収益は、2億5000万ドルに上る。

 国連人間居住計画(ハビタット)によれば、今後10年間で少なくとも30億人がよりよい住宅を必要とし、それまでに1日当たり9万6000戸を新たに建設する必要がある。最終的には、人々が住んでいる場所に住宅を建設するのではなく、気候変動の被害が少なく、将来的に影響を受けるリスクが低く、リソースや技術に優れた地域に人々を移動させなくてはならないだろう。火災や洪水の保険料の上昇、慢性的な干ばつや熱波によって、このような事態は避けることができない。

 筆者のカンナがCEOを務めるクライメート・アルファの調査では、気候変動に対してレジリエントな地域に早期に投資することで、2030年までに不動産ポートフォリオの収益が70%以上増加することが示唆されている。不動産開発業者、アセットマネジャー、保険会社が、気候変動による移住を予測し、促進して、そこから利益を得るためには、土地の取得、手頃な価格の住宅の建設、保険料の調整を加速させる必要がある。

 それらを迅速に行うには、新しいテクノロジーが役立つはずだ。米国を拠点とするアルキストは、3ベッドルームの住宅をわずか24時間強でプリントしている。これに対して、ボランティアで運営されている非営利団体ハビタット・フォー・ヒューマニティの場合、通常4週間かかる。

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 気候変動への対応には、緩和と適応の両方が必要であり、事業機会としては後者のほうが優れていると筆者は考えている。チャールズ・ダーウィンが教えてくれたように、適応する者が生き残り、繁栄する可能性が最も高いのだ。小さな投資が、予測不可能な未来への大きな備えとなる。


"It's Time to Invest in Climate Adaptation," HBR.org, August 01, 2022.