(3)経営資源のトレードオフを確実に行う
経営幹部が企業レベルで資本の移動を推進したとしても、組織として投資の見返りを確保することに苦労するのは、人材やテクノロジーをはじめとする各種能力を流動化させ、資本の移動を支えていないからだ。
そのような状況が起きるのは、事業部門と機能部門のリーダーが、経営資源の配分について高度の裁量権を持っていることが多いからである。一般に予算執行権限者は、既存のサイロ化したリソースの利用に偏りやすい。その理由は、報酬のインセンティブ、特定のビジネスユニットや機能への集中、進行中のプロジェクトが成功してほしいという願望など、さまざまだ。
キャピタルアクティビズムを実践するリーダーは、次のような観点から、事業のリソースを投資優先順位の変更に確実に対応させる。
・予算区分ではなく、サービスやスキルによってリソースの利用状況を追跡する。
・戦略的目標に照らしてリソースの利用状況を分析するために、運営費を戦略予算に分類する。
・企業としてリソースのトレードオフを捉えるために、たとえば株主価値を高める複数の要素など、さまざまな指標を連動させる。
ある大手医療機器メーカーでは、キャピタルアクティビズムの思考を浸透させる取り組みに着手している。具体的には、財務部門のリーダーが事業部門のリーダーおよびチームに、戦略的時間軸やビジネス目標を達成するための主な要因など、企業の財務およびビジネスモデルについて指導するというものだ。さらに、事業と財務パフォーマンスの因果関係を示すために、事業の意思決定の種類と株主に提供する価値の要素を結び付けている。
この財務部門のリーダーによる2時間のトレーニングは、株主価値という最終目標を、さまざまなレベルの財務および事業指標に分解し、個々のイニシアティブがキャッシュフローに与える影響を説明するものだ。
企業の利益につながる投資やリソースを確保するための意思決定において、重要なカギとなるのは、自明ではないコストも含めて分析することである。個々の意思決定やイニシアティブ(既存のプロダクトへの新機能追加など)を、予想できる追加収入だけでなく、設計コスト、製造ラインの変更、保証コストの追加などまでをも分析範囲とすることだ。事業部門にとっても、業務と財務のつながりが身近なものになるだろう。
このようなエクササイズによって、事業部門のリーダーは、新たな戦略的投資の優先順位に合わせて経営資源を移動する、あるいは移動しないことが、企業のパフォーマンスにどのような影響を与えるかを把握することができる。
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資本対応力は、ディスラプションに満ちた世界で競争力を維持するために欠かせない。実践するには、成功したアクティビスト投資家の行動を採用し、すべての投資優先順位の決定に適用する必要がある。差別化された投資を徹底して追求し、資金フローの選択性を高め、経営資源のトレードオフを確実に行うことが、企業価値を高めるのだ。
"Why Executives Should Start Acting Like Activist Investors," HBR.org, August 17, 2022.