
やっかいな同僚がいる。対処に手こずっている場合、どのような戦術が事態の打開につながるだろうか。みずからの感情を抑え込んだり、相手に報復したり、恥をかかせたりしても事態は好転しない。本稿では、やっかいな同僚に対して避けるべき行動を提示する。問題は個人ではなく、組織の文化にあるのかもしれない。
短期的な痛みを和らげるだけの戦術を回避する
やっかいな同僚に手こずっている人に対して投げかける、お気に入りの質問がある。「どんな手でも使えるとしたら、この状況にどのように対応するのか」という問いだ。
筆者は著書Getting Along:How to Work with Anyone(Even Difficult People)の取材・執筆の過程で、多くの人にこの質問をする機会に恵まれた。返答は実用的なものや面白いものから、おそろしいもの(迷惑な同僚の顔を殴りたい人が大勢いた)までさまざまだ。劇的な形で職場を去りたいと夢見る人が多い一方、歯に衣着せず、自分の感情をそのまま同僚にぶつけたいと思う人もいる。
筆者がこの質問をするのは、対応の方法について幅広く考えてほしいからだ。制約を外して考えると、実際にうまくいくかもしれない戦略(誰かの顔を殴るわけではない)にたどり着けるケースも少なくない。
ただし、生産的とは言いがたい戦略もかなりある。気分が晴れるような気がするものの、実際には逆効果となる戦略である。
そのような戦術は短期的には痛みを和らげてくれるかもしれないが、結局は自分にも、相手にも、そして組織にも悪影響を及ぼしてしまう。よく見られる、そのような戦術を回避できれば、事態をこれ以上悪化させずに済む。
感情を抑え込む
やっかいな同僚との関係に困り果て、もう打つ手がないという気分になる。そのような時、善意の友人や同僚からは「無視すればよい」「我慢して前を向こう」などと声をかけられたりするものだ。
そのような忠告は、問題の相手のことを本当に気にせずにいられるのなら、適切なアドバイスなのかもしれない。だが、「何もしない」と決めたのに、実際には「あらゆることをしてしまう」ケースも多い。思い悩んだり、パートナーに延々と愚痴をこぼしたり、相手に感情をぶつけず消極的かつ否定的な態度や行動を取る「受動的攻撃」に走ったり……。感情を抑え込もうとしても、それが功を奏することはまずない。
実際、心理学者のスーザン・デービッドは「感情を抑え込むこと──動揺している時に何も言わないと決めること──は悪い結果につながりかねない」と指摘している。自分の感情を表現しないと、思いがけない場面でその感情が表出する可能性が高いというのだ。
心理学者が「感情の漏れ」と呼ぶこの現象について、デービッドは以下のように説明している。
仕事でいらいらした後に、配偶者や子どもを怒鳴った経験はありませんか。あなたのいら立ちは(彼らとは)なんの関係もないのに……。感情を封じ込めていると、皮肉っぽい言い方で、あるいはまったく別の場面で、意図せぬ形で感情をぶつけてしまいやすくなります。感情の抑え込みは、記憶力の低下や人間関係の難しさ、生理的コスト(心臓血管系のトラブルなど)と関連しているのです。
つまり、我慢したからといってストレスレベルが下がることはなく、むしろ高まってしまう。
この戦術を回避すべき理由は、負の感情を罪のない傍観者にぶつけてしまうリスクだけではない。How to Have a Good Dayの著者、キャロライン・ウェブは、問題の同僚に対して不快感を覚えていないかのように振る舞う背景には、それなりの理由があるのだろう(おそらく人間関係を維持したいのだろう)としつつも、結局のところ、相手はあなたのいら立ちを察知する可能性が高いと指摘する。
彼女は、筆者とのインタビューで次のように語った。「感情は伝播するものですから、あなたが抱える否定的な感情に相手が気づいていなくても、何らかの影響は及ぶものです。リモートワーク環境であっても、受動的攻撃性の強いあなたの態度は伝わってしまうでしょう」
抑圧の物理的な影響を被るのは、あなた自身だけではないことも研究によって明らかにされている。怒りや不満を隠していると、周囲の人の血圧も上昇しやすいのだ。周囲の人はあなたの感情や思考を正確に理解できるわけではないが、根底にある緊張は感じ取るのである。