従業員が、複数のアプリケーションやウェブサイトを使用しながら作業を行うことは一般的かもしれない。筆者らが、アプリケーションやウェブサイトを切り替える際に発生する負荷を分析したところ、切り替えに膨大な時間が費やされていることがわかり、仕事体験を損ねていることも明らかになった。このような現実を前に、マネジャーやリーダーには何ができるだろうか。

業務で使用するアプリやサイトを切り替える時の負荷は大きい

 あなたは1日を通して、アプリケーションの切り換えを何回行っているだろうか。デジタルワーカーにとって、アプリケーションの間を行ったり来たりすることは避けられず、呼吸するように自然にAlt+Tabキーを押している。

 なぜこうなったのかを理解するのは難しくない。ビジネスニーズの変化に伴い、それに対応すべく新たなアプリケーションが導入される。そしてCIO(最高情報責任者)とマネジャーは、古いアプリケーションを廃棄して数を減らすことがなかなかできない。

 大組織ではアプリケーションは何千にも及ぶ場合があり、小規模な組織でも常に数十ないし数百ある。結果的に従業員は、それらを次々と頻繁に切り換える日々を過ごしている。

 筆者らが調査した、フォーチュン500に属する某消費財企業の例を考えてみよう。サプライチェーンの取引処理を1回実行するために、関係者は22の異なるアプリおよび個別のウェブサイトの間で約350回、切り換えをしていた。これは平均的な1日を通して、一人の従業員がアプリやウィンドウを3600回以上切り換えることを意味する。何とも膨大な数である。

 このような切り換えは、単に「いまの働き方」として片付けられることが多い。人々にとって負担であり、時間と労力と集中力が無駄に消費されているにもかかわらず、である。しかもデジタル化とリモートワークがますます進む世界で、この傾向は続くと思われ、さらに強まる可能性も高い。

 企業はこの点について、考え直すべきである。このような働き方に伴うコストは、企業の想定よりも大きい可能性がある。このことを認識すれば、さらによい働き方が見つかるかもしれない。

切り換えの負担

 ユーザーが一つのアプリケーションから別のものに移る際に負担する労力は、切り換えのキーを押すという単なる身体動作だけに留まらない。アプリケーションの切り替えに対する、意味的な文脈と目的に順応するために時間がかかる。たとえアプリを見ているだけであっても、「自分の位置を確認する」必要があるのだ。

 たとえば、メールからスプレッドシートに切り換える時、双方のインターフェース、レイアウト、目的は大きく異なる。切り換え後のタスクを進める準備ができる前に、スプレッドシートに素早く順応するために一瞬の時間がかかる。

 この再順応が、負担となるのだ。心理学および神経科学では、複数のタスク間を行ったり来たりすること──「コンテキスト・スイッチング」とも呼ばれる──は認知的負担を伴うことが示されている。2つのアプリケーション間の行き来や切り換えも、コンテキスト・スイッチングに相当することを筆者らは発見した。切り換えが多すぎると、脳のコルチゾール(代表的なストレスホルモン)の分泌が増え、活力が衰えて集中が難しくなる。

 これらの一瞬一瞬を足し合わせると、どれほどの時間と労力が無駄になるのか。筆者らはそれを測定したいと考えた。

 ワークグラフは、チームが仕事を遂行するためにアプリケーションとどのように接しているかを明らかにするソフトウェアだ。筆者らはこれを活用し、アプリケーションの切り換えに伴う認知的労力のコストを徹底的に測定した。フォーチュン500に属する3社の20チーム、計137人のユーザーを最大5週間にわたり調査し、就業日数3200日分のデータセットを入手した。これらチームの大半は金融、人事、サプライチェーン、人材採用、在庫管理などの部門でミドルオフィスかバックオフィスの仕事に従事していた。

 このデータをもとに測定したのは、ユーザーが作業中にアプリケーションを切り換えた後、次の工程に入るまでに要した余分な時間だ。つまり、再順応して次にやるべきことを把握するまでにどれほどの時間がかかったか、である。

 その結果、切り換えのコストは平均すると2秒強であった。そしてデータセットにおける平均的なユーザーは、異なるアプリやウェブサイトの間で毎日約1200回の切り換えをしていた。

 これらの仕事の従事者が、新たなアプリケーションへの切り換え後に再順応するために費やした時間は、1週間で4時間弱になる。1年を通しての合計は就業日5週間、つまり年間就業時間の9%に及ぶのだ。