ビジネスに伴うコスト
これは本当に問題なのか、あるいはデジタル環境でビジネスをするためのコストにすぎないのだろうか。これを明らかにすべく、筆者らはユーザーの仕事のやり方をさらに詳しく観察し、連続する2回の切り換えで費やされる時間を測定した。
すると、1回目の切り換え後、11秒以内にさらに別のアプリに移動したケースが65%を占めることがわかった。つまり、一つのアプリケーションで費やす時間は、切り換える際に費やされた負担に比べて圧倒的に多いわけではない。
結果としてユーザーは、頻繁に集中し直すことを求められ、集中力の持続時間が分断され、それが消耗につながっている。このような注意散漫な状態は一般的に、お粗末な職務設計と多すぎるアプリのせいで生じる。基本的に、仕事のやり方そのものが注意散漫を招いているのだ。
ほとんどの従業員にとって、ドキュメント、ウェブサイト、アプリの間の行き来を避ける明白な方法はない。とにかくこれが、仕事を片付けるための手段なのだ。企業向けアプリケーションの大半は、相互に接続するよう設計されていない。したがって人々は、複数のアプリケーションからデータを取得し、変換してから他のシステムに送信する「回転いす」のような役割を担っている。彼らの仕事の相当部分は、異なる種類のアプリケーション間で接着剤のような役割を果たすためにある。
これは業界や規模にかかわらず、世界中のほぼすべての組織に共通する仕事の傾向だ。人々が遂行するプロセスとタスクは、複数のアプリケーションにまたがるよう設計されており、ゆえに今日の仕事は本質的に、絶え間ない切り換えを強いるのである。
しかし、これは不可避ではない。マネジャーとリーダーは、事態を改善するために対策を講じることが可能であり、必須である。
マネジャーにできること
もちろん、切り換えが一様に悪いわけではない。すべてを網羅する企業向けアプリケーションを構築するのは困難である。だが筆者らの発見から、マネジャーが得られる教訓はいくつかある。
●問題に対して人員を投入することは、解決策ではない
人を雇い、異なる種類のITアプリケーション間の接着剤になってもらうことは当然可能だ。しかしそれは、分断されたITアプリが根本原因であるという事実を覆い隠すだけであり、それを解決しないことによりコストが増えてしまう。
今日の職務設計のあり方は本質的に、人々に切り換えの負担、集中力の喪失、注意散漫をもたらす。人員を補充することでこの問題に対処するのであれば、考慮すべき現実がある。質の低い仕事体験は、生産性にも影響するということだ。
●職務設計が摩擦の原因となっている部分に目を向ける
切り換えの負担が大きい部分を見つけるには、複数のアプリケーションを使って仕事をしているチームを探すとよい。このようなチームでは、職務設計の改善に投資してアプリケーションの数を減らすことが仕事体験の合理化につながる。
●作業負荷のバランスを見直す
アプリケーションを頻繁に切り換えながら仕事をする人は、退屈して気が散ってしまう傾向がより強い。このため人員削減の候補になりやすく、仕事への意欲も失いがちだ。1日中、異なる種類のアプリケーション間を何度も行き来するだけの仕事を本当にやりたい人など誰もいない。そのような作業負荷を、チーム全体で分散できないか検討すべきだ。