リーダーにできること

 最高経営幹部のメンバーは、改革に向けて強い力を発揮できる。彼らが認識すべき重要な点は、従業員を少数のペルソナ──企業が職務やシステムを設計する際、大勢の従業員たちの代わりとして用いる人物像──に集約して平均化することは、もはや不可能であることだ。

 最新のアプリの設計は、(今日現在のように)ごく一部の限られた上級ユーザー向けではなく、組織内のすべてのユーザーに向けてパーソナライズすべきだ。具体的には以下の方法がある。

 ●新たなアプリケーションを導入する際のコストを合理化する

 ソフトウェア開発のすべての段階で、(指名された少数の上級ユーザーではなく)実際に現場で使用するユーザーと共同で導入の承認を行う。

 一例として、フォーチュン500に属する某小売薬局チェーンは、旧型のメインフレームシステムに代わり、デザインが整ったウェブベースの薬剤判定システムを導入した。ところが、同社の多忙な薬剤師のほとんどは、旧型のメインフレームのインターフェースとレスポンスタイムに非常に慣れ親しんでおり、格段にきれいなウェブのインターフェースを好まないことが判明した。スピードと信頼性のほうが、彼らにとっては重要だったのだ。

 ●ユーザーセントリシティとユーザーエクスペリエンスに基づいて主導する

 理想的なアプリケーションは、シームレスに設計され、ユーザーの集中力を後押しし、切り換えの負担とデジタル上の注意分散を最小限にする。そのようなアプリケーションを設計するには、ユーザーセントリシティ(UC)とユーザーエクスペリエンス(UX)のチームに新しいプロセスとシステムの設計を主導させる。設計プロセスには、少数ではなく、多数のユーザーペルソナを取り入れるよう指示する。

 ●ワークグラフの構築と発展に投資する

 消費者向けブランド企業は、何百万ものデータポイントを用いて、長期的なコンシューマージャーニーとコンシューマーグラフを作成する。数百万ドルを投じ、消費者がチャネル、アプリ、物理的環境の全体にわたって、どのように行動しインタラクションを行っているかを把握するのだ。その後、さらに何億ドルも費やして、シームレスな購買体験を促す適切なメッセージとインタラクションを提供する。

 リーダーは、自社で最も生産力を有する資産である従業員に対しても同じことをするために、これらの企業から学ぶことができる。それぞれの従業員は、数百万もの接点を持ち、消費者と同じようにパーソナライズされ、関心を払うべき存在だ。独自の知見を引き出してデジタルによる継続的な問題解決を可能にする、長期的なエンプロイージャーニー──厳密にいえばワークグラフ──を、すべての企業において早急に構築する必要がある。

 たとえば、発注の承認をアウトルックのメールに統合する機能は、ほとんどの調達ソフトウェアの初回リリース版にはなかったが、いまでは標準装備となっている。理想的な状況は、週または月ペースで改善していくことだ。ワークグラフは、より迅速な問題の発見と解決を可能にする。

 インフォシス創業者のN. R. ナラヤナ・ムルティはかつてこう言った。「当社の資産は毎晩ドアから外に出ていく。彼らが次の朝に戻ってくるよう、我々は万全を尽くさなくてはなりません」

 離職率が高い時代には、リーダーは事業の成長や顧客体験、利益を気にかけるのと同じように、従業員体験の向上も優先することが不可欠だ。切り換えの負担は、従業員の仕事体験に対して共感が必要な事項の一例である。ワークグラフのデータにより裏付けられた共感が、最も大事な資産を翌朝会社に戻って来させるための原動力となるだろう。


"How Much Time and Energy Do We Waste Toggling Between Applications?" HBR.org, August 29, 2022.