
借入金の利払い分の利益も生み出せない「ゾンビ企業」が注目されるようになったのは1990年代の日本だ。当時、日本の多くの金融機関は、借入金の返済が行えない企業に対して返済の猶予を認めた。倒産していても不思議でない企業を、ゾンビのように延命したのだ。米国をはじめとした金利上昇で、ゾンビ企業はいよいよ市場からの退場を余儀なくされるのか。本稿では、ゾンビ企業が発生するメカニズムを解き、ゾンビ企業が存在することによる問題点を生産性の観点から論じる。
金利上昇はゾンビ企業を市場から退場させる
エコノミストたちは長年にわたり、いわゆる「ゾンビ企業」の増加に警鐘を鳴らしてきた。ゾンビ企業とは、借入金の利払いに必要とされるだけの利益を生み出せていない企業のことだ。本来であれば、そのような企業は、業績を改善させるか、大がかりなリストラクチャリングに乗り出すか、市場からの退出に追い込まれるかのいずれかになるはずだ。ところが、ゾンビ企業は、おぼつかない足取りながらも事業を継続し続ける。
ゾンビ企業がさまざまなリソースを使い果たした結果、他の企業が有効活用できたはずのリソースが失われ、経済全体の足を引っ張るのではないかと、一部の研究者は懸念を抱いている。
しかしいま、経済の状況は急激に変化しつつある。新しい経済環境の下、ゾンビ企業はついに息絶えるかもしれない。低い金利での借り入れができるからこそ、ゾンビ企業はこれまで生き延びてこられた。金利が上昇すれば、状況は一変し、この種の企業が借り入れを行うことが難しくなる。
「(ゾンビ企業の)命運が尽きつつあるとの声もある」と、ブルームバーグ・ニュースは2022年5月に指摘した。「やがて、近年記憶になかったほど、長期間にわたり大量倒産が続くことになるもしれない」
このシナリオが現実になった場合のリスクは、2008年の金融危機のように、1回の大規模なショックが生じるケースとはやや性格が異なる。さまざまな企業の債務が次々と返済期限を迎えるなかで、企業の倒産やリストラの波が何年もの間ゆっくりと続くことになる。
そうなると、大量解雇が行われて労働者が打撃を受け、投資家も莫大な損失を被る可能性がある。さらには不況の到来や、不況が到来した後にそこから脱却することがいっそう難しくなるおそれもある。半面、ゾンビ企業が資産売却を促される結果として、企業や投資家にとって新しいチャンスが生まれる可能性もある。