
リーダーの資質を持っていても、リーダーになることを避ける人は少なくない。では、リーダーになることを避けるのはなぜなのだろうか。筆者らの研究によると、3つの「評判への不安」に起因していることが明らかになった。マネジャーの重要な任務の一つに、部下のリーダーシップ育成がある。これに取り組む際、マネジャーはリーダーになることを回避したいという部下の心理を認識し、原因となっている不安を取り除くことが必要となる。
リーダーを避ける要因は「評判への不安」
ある人がリーダーシップを発揮する時、みずからをリーダーと認識しているかどうかが大きな意味を持つ。研究によると、そのような自己認識を抱くことは、人がリーダーになるプロセスの重要な最初の一歩だ。逆に、自分がリーダーであると認識したくない人は、能力を持っていても、リーダーとしての責任を果たせない場合がある。
そこで浮かび上がってくる疑問がある。なぜ人は、しばしば自分のことをリーダーと認識することに抵抗を感じるのだろうか。
そこにはさまざまな要因が関係している。先行研究によれば、仕事上の目標を積極的に追求しない要因として、自分の評判(レピュテーション)に悪影響が及ぶことへの不安がある。では、人々がみずからをリーダーに位置づけることを躊躇し、リーダーシップを発揮することに二の足を踏む要因にも、自分の評判に悪影響が及ぶことへの不安が関係しているのだろうか。
筆者たちはこの点を明らかにするために、1700人を超す人々を対象に実験を行った。実験参加者は、雇用されてフルタイムで働いている人たち、ビジネススクールのMBAプログラムで学ぶ学生たち、米国空軍士官学校に所属する学生などだ。この実験で一貫して見られたのは、リーダーになると評判に悪影響があると強く心配している人ほど、自分のことをリーダーと認識する可能性が低くなるという傾向だった。
筆者たちの研究により、自分がリーダーだと認識することを躊躇する原因となる「評判への不安」が3つ見えてきた。
●威張っていると思われることへの恐怖
実験参加者の多くは、リーダーとして行動すると、威張っているとか、独裁的だといった印象を持たれるのではないかと心配していた。ある実験参加者は以下のように述べた。「自分の意見を強引に押しつけているような印象は与えたくありません。権力を乱用しているようにも思われたくない。冷たい人間だとも思われたくありません」
女性リーダーに対して「ボス気取り」といった揶揄の言葉が浴びせられることはよく知られているが、筆者たちの研究によれば、男性も女性も「ボス気取り」だと思われることを非常におそれている。
●ほかの人たちと違うと思われるリスク
もう一つのよく見られる不安は、リーダーとして振る舞うことにより、目立ってしまい、ほかの人たちとは違う存在として過度の注目を浴びるのではないかという不安だ。好意的な形であっても、注目されることを嫌う場合が多い。
ある実験参加者は語った。「尊敬されたり、偶像化されたりすることは望んでいません。リーダーシップを発揮することが嫌なわけではありませんが、ほかのみんなと同じレベルに身を置きたいのです」。多くの人は、リーダーになると、その代償としてほかのメンバーとの一体感を失うことになりかねないと心配しているのだ。
●資質不足だと思われるリスク
本人がリーダーの資質があると自己評価しているかどうかは別にして、多くの実験参加者は、周囲の人たちから資質不足だと思われることを心配している。ある実験参加者は「リーダーの役割は男性が担うものだというイメージを持っている人が多いことをよく知っていますから、なんとなく落ち着きません。私がリーダーの役割を担おうとしても、周囲から相手にされないのではないかと不安になります」