●利点に目を向ける
ドレスダウンをすると、同僚やクライアントの印象が悪くなるかもしれないと心配する人がいるかもしれない。だが、コロンビア・ビジネススクール准教授のシルビア・ベレッツァ、ハーバード・ビジネス・スクール教授のフランチェスカ・ジーノ、ボストン大学クエストロームスクール・オブ・ビジネス准教授のアナット・ケイナンによる研究では、興味深いことにそれとは反対の傾向が示されている。
彼らの論文「赤いスニーカー効果:非同調のシグナルから地位と能力を推測する」によれば、「非同調の振る舞いは、犠牲を伴う目に見えるシグナルであるために、『誇示的消費』の特定形態として機能し、他者の目に地位と能力を肯定的に推測させる」ことがわかったのだ。
そのスニーカーは、誰かが普通に履いているものより、あなたを成功者らしく見せるかもしれない。とはいえ、この論文が強調するように、赤いスニーカー効果は、単にドレスコードの判断を誤った場合ではなく、明らかに意図的な振る舞いである場合にのみ発揮される。そして、何を「意図的」とするかは、見る人によって異なる。だからこそ、観察と実験から始めることを勧めたい。
●自分自身を輝かせる
ここからは、自分自身のドレスコードを定めるステップだ。
リンクトインにスニーカーの写真を投稿してから数カ月後、筆者はナイマ・ジャッジの投稿を目にした。バンク・オブ・アメリカ・プライベート・バンクでマネージングディレクター兼マーケット・インベストメント担当エグゼクティブを務める彼女は、白のパンツに、アフリカンプリントが鮮やかな黄色いシャツを着て、堂々と歩く自分の写真に「今日の『ビジネスウェア』。これで全部。#carryon #Investmentexecutive」とメッセージをつけていた。
興味をそそられた筆者は、この変化についてもっと知りたいと思い、ジャッジに連絡を取った。彼女の説明によれば、パンデミック後は金融サービス業界の伝統的な黒や茶色のスーツを避けて、明るい色や履き心地のよいスニーカーなど、より自分らしいと思えるスタイルを選ぶことにしたという。
最初は快適さを求めていたと、ジャッジは言った。しかし、すぐにもっと深い意味を持つようになった。オフィスでも「本当の自分」らしくいようと、考え方を変えたという。着る服で自分自身を表現したい。極めて保守的な業界に身を置く有色人種の女性として、また、数少ない役割を担っている有色人種の女性として、意識的に他者のロールモデルになりたい。彼女はそう考えたのだ。
服装は、自分を型にはめる堅苦しいものではなく、自分らしさを表現するものだという考え方が広く受け入れられつつあると、ジャッジは筆者に語ってくれた。
筆者は、ジャッジに「あなた自身や組織に、どのような利益をもたらすと思いますか」と尋ねた。彼女の答えは、示唆に富むものだった。「本当の自分を出さないためには、エネルギーが必要です。より自分らしくいられるならば、その分のエネルギーを使って、顧客に力を注いだり、直属の部下を鼓舞したりすることができます」
本当の自分らしくあることは、強力なメッセージになる。そして、パンデミック後のいま、快適さも同じように強力なメッセージを持ちつつある。
企業の経営幹部は、ジャッジがそうしたように、オフィスのドレスコードがどのように変化しているかをみずから示すことによって、その方向性を打ち出すことができる。そして、境界線について話し合うことで、筆者が久し振りにスティレットヒールを履いて壇上を歩くことに不安を覚えたように、どうすればよいのかわからず、一歩踏み出せずにいる人を減らすこともできるのだ。
* * *
オフィスへの復帰が進んでいるいまこそ、オフィスマナーのルールを書き換えるまたとないチャンスだ。どの振る舞いを残し、どの習慣を時代遅れだと判断するか。それらのルールを自分たちの手で構築しながら、オフィスで誰もが本当の自分を表現できる場所を創出していく。そうすれば、より大きな充実感と自信を得て、ヒールを履くことがなくなれば、足からも感謝されるだろう。
"The New Rules of Work Clothes," HBR.org, September 07, 2022.