取引処理に音声アシスタントを使用すると企業価値は低下する
最も意外な発見として、企業が取引処理のための音声アシスタント機能を発表した際には、株価は平均1.2%下落、平均時価総額で10億ドル以上減少していた。
この機能によって、消費者は請求書に対する支払いや買い物といった取引処理が音声指示で可能になるため、キャッシュフローが増えて市場評価が高まると期待する向きもあるだろう。
ところが筆者らのデータによれば、機器操作機能と同じように取引機能も、音声アシスタントでできることは、消費者が考えるよりもはるかに少ないため、逆効果となりかねない。
たとえば、スターバックスやチポトレのスキルによって、消費者は過去に購入したメニューを再度注文できるだけであり、新しいメニューの注文はできない。
加えて、取引機能を使うには、消費者がすでにその企業のアカウントを持っている必要がある(そのアカウントは他のデバイスで設定しなくてはならない)。したがって新規のユーザーは、これらのツールを効果的に利用することができない。
また、音声情報の誤認識をはじめとする、技術上の欠点による不正確さは、ユーザーに金銭を請求する過程において大きなリスクとなる。そして、センシティブな金融データをデバイスではなくクラウドに保存すると、セキュリティ上のリスク、プライバシー上の懸念、規制上の要件が増える。このような課題から、取引機能に対するネガティブな市場反応がほぼすべてのケースで見られた。
音声アシスタントは、サービス企業よりも製品企業により多くの価値をもたらす
最後に、音声アシスタントの用途が情報提供か、機器操作か、取引処理かにかかわらず、サービス主導型の企業に比べ、製品主導型の企業は機能リリース後の時価総額の伸び幅が平均0.4%(3億ドル)高かった。
音声でやり取りができるようになるということは、物理的な製品に対し、実質的に新たな機能の付加となる場合が多いからだ。組み立てや使用、メンテナンスに関するリアルタイムの助言などがその例である。
反対に、本質的に無形のものを提供するサービス企業にとって、この種の機能の必要性は低い。したがって音声アシスタントは、主に従来のチャネルですでに利用できる機能を複製したものとなりがちで、ユーザーにとって付加価値は少ない。
たとえば、ヘアカラー剤を買うと、通常は細かい文字で読みにくい取り扱い説明書が付いてくる。しかしクレイロールの音声アシスタントを使えば、ユーザーは浴室で髪を染めながらリアルタイムで説明を聞くことができ、髪質に応じた個人向けの提案にもアクセスできる。
同様にクエーカーは、多くの製品の調理プロセスをユーザーに案内する音声アシスタントを提供し、鍋をコンロにかけている間に箱の説明文を読んだりレシピを調べたりするよりも、格段にシンプルな体験をもたらしている。
一方、アメリカン・エキスプレスやユナイテッド航空などのサービス主導型企業も、情報提供用の音声アシスタントを用意している(口座への最近の請求や、次回のフライトの特典といった情報にアクセスできる)。だが総じて、これらの情報をアレクサを経由して取得するのと、ウェブサイトの閲覧や企業への問い合わせ電話で得るのは、同じくらい簡単だ。
結果的に、これらの企業は音声アシスタントの開発費を負担したものの、その機能は、企業に有意義な売り上げをもたらすほどの増分価値を市場に提供しなかったのである。
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ユーザーとのエンゲージメントの強化に寄与する新たなプラットフォームの可能性に、胸を躍らせるのはごく自然なことだ。そして実際に、企業は音声アシスタントのような新技術への投資によって多くの利益を得られる──ただし、それは特定の状況に限られる。
筆者らの調査や市場の反応を見ると、情報提供の機能や、一般的な製品企業に関しては、音声アシスタントアプリの開発で利益を上げることができる。だが、機器操作および取引処理の機能や、サービス企業に関しては、音声アシスタントが開発コストを正当化するほどの価値を生む可能性は低い。
"Alexa, Should My Company Invest in Voice Technology?" HBR.org, September 08, 2022.