
会社の価値を客観的かつ明確に把握できていなければ、将来、重大なリスクにさらされるだろう。本稿で筆者らは、多数のM&Aに関わってきた経験をもとに開発した企業価値の評価手法「クイックバリュー」を紹介する。この手法は、特に不透明な非上場企業の価値の算出を実現し、事業売却における価格の妥当性の判断や、価値創造の源になっている事業の割り出しに活用できるという。
企業価値の根拠を明確にする利点
中規模企業の経営者や管理職の人は、自社の価値を明確に理解しているだろうか。現時点での価値や、昨年どれだけの価値を創出したか、把握しているだろうか。事業のどの部分で価値が創出され、どの部分の価値が低下しているか、具体的に指摘できるだろうか。
これらの質問の答えが一つでも「いいえ」ならば、会社の将来が重大なリスクにさらされているかもしれない。
最近、筆者の一人であるリード・フィリップスは、それぞれ異なる業種で3つの事業を運営する同族経営の企業に助言をした。2つの事業は将来性のある業界で好調な業績を上げていたが、残る一つの事業は評価が過去最低で、回復の見込みがない斜陽産業で経営に行き詰まっていた。残念なことに、経営陣は、
このアプローチがもたらすダメージが明白になったのは、いよいよ会社を売却する段階になった時だった。3つの事業はそれぞれ別の業種だったため、3つの買い手がついた。業績好調な2つの事業は、それぞれ7500万ドルで売却された。しかし低迷していた事業は、あれほど手をかけたにもかかわらず、1250万ドルにしかならなかった。
もし経営陣が、発展の余地がある事業に力を集中し、創造性のある人材やイノベーションに投資し、顧客基盤を広げ、品質を調整するなどしていたら、3つの事業を合わせた企業としての価値はどうなっていただろうか。もともと有望だった事業は数年でさらに強化されたはずだ。買い手はそれぞれ7500万ドルではなく、25%上乗せした1億ドルでも、喜んで支払ったかもしれない。たとえ、有望な事業に投資するために第3の事業の閉鎖を余儀なくされたとしても、市場価値が2事業で合計5000万ドル上昇していたら、業績不振の事業を閉鎖するコストを補うには十分足りたはずだ。
いかなる企業もこのような過ちを犯すことはあるが、とりわけ同族企業はリスクが高くなる。豊かな歴史と伝統は、通常ならば非常に価値のある資産だ。しかし、経営者やリーダーが強い愛着心を持っているがゆえに、不採算事業をなかなか手放せなかったり、新しい方向性を受け入れることに抵抗したりすると、かえって大きな負債になってしまう可能性がある。そのような企業には、現実と向き合うための明確で客観的な評価が不可欠である。
残念ながら、中規模の非公開企業(同族企業の場合も、そうでない場合もある)のオーナーや経営者の大半は、自社の価値を明確に理解しないまま、日々の仕事をこなしている。多忙なエグゼクティブは、自分たちで価値を判断するのは容易ではないと思い込み、その話題を脇に追いやってしまうことが多い。
非公開企業は株式公開企業と違い、株価によって日々、自動的に評価されることがなく、価値の創出を分析する企業戦略担当のエグゼクティブチームがあるわけでもない。それに、中規模企業の多くのリーダーは、第三者による評価が複雑で、時間がかかり、押しつけがましく、費用が高いと考えている。それらの理由から、成長のための資金調達などの必要に迫られない限り、評価を受けようとしない。
このような状況であったとしても、もしあなたが中規模企業のオーナーまたは経営者ならば、最低でも年に1回は詳細な評価を行うべきである。
これは毎年の人間ドックのようなものだ。評価は、何がうまくいっているのか、あるいはうまくいっていないのかを見極めるのに不可欠なステップだ。重要な点は、うまくいっていないことを明らかにすることだ。そうすれば、手遅れになる前に対策を講じることができる。
必要のない顧客の機嫌を取るために貴重なリソースを費やしたり、衰退が避けられない事業領域を成長させようとしたり、大きなチャンスがある領域に気づかず投資しなかったりといった失敗をせずに済むだろう。
さらに、買収に興味のある買い手が接触してきた時に、適切に対応し交渉するための備えになる。最近、よく耳にするつかみどころのない「EBITDA(利払い・税引き・償却前損益)のX倍」を追求しなくても、あなたの会社の価値とその根拠について、明確に把握できるようになるだろう。