AIAは、米国の経済成長に好ましい影響を与え、2011年以降、パテント・トロールによる訴訟は減少に転じた。

 しかし、USPTOのアンドレイ・ヤンク前長官が2020年、Fintivルールを一方的に先例としたことで、この進歩は止まった。Fintivルールの下では、PTABに対する審査の申請は、その実体的側面とは無関係の要因で却下される。なかでも大きな問題は、特許に関わる訴訟がすでに並行して進んでいる場合、PTABの審査が拒否されることだ。

 たとえば、ある新興企業が、聞いたこともなく、情報もほとんどない有限責任会社(LLC)から特許侵害で提訴されたとの通知を受けたとする。この訴訟がPTABの審査よりも先に始まると予想される場合、すでに訴訟が進行中であるとして審査は却下される。PTABは90%以上のケースで将来の裁判日程を誤って判断しているため、このことは特に大きな問題となる。

 米連邦議会がAIAを通過させた際、筆者らは、「特許を侵害している」という主張を突きつけられてしまう企業やイノベーターを保護するため、PTABによる特許無効手続きの審査プロセスを導入することを意図していた。訴訟が並行して進んでいるためにその審査が拒否されるということは、審査が最も有益な場合であっても、その選択肢を失うということだ。

 Fintivルールは、裁判所がすでに処理している紛争にPTABが関与しないよう、紛争の効率化の名の下に設けられたはずだ。しかし、特に高度な技術的問題については、PTABの審査官は裁判所よりもはるかに優れた紛争処理能力を有している。そして、審査ではなく訴訟を進めなくてはならないことから、被告側の企業は多額の財務的負担を強いられ、その負担リスクはさらに高まるのだ。

 要するにFintivルールは、小規模な新興企業から大手メーカーまで、ますます多くの企業に対して、非がないにもかかわらず、悲惨な結果を招くおそれのある高額訴訟に、より多くの時間とリソースを費やして自己防衛することを強要しているのである。 

 Fintivルールを撤廃すれば、訴訟という包囲網に囲まれているイノベーターに、特許紛争を解決するための、より公平かつ安価で、効率的な選択肢を与えることができる。そうなれば、弁護士費用を削減し、雇用を創出し、賃金を引き上げ、経済を活性化して生活の質を向上させる最先端の製品を開発することに、さらに投資できるようになるだろう。

 ビダル長官が最近公表した暫定ガイダンスは、Fintivルールの問題に対して前向きなアクションを起こす可能性を示唆しているが、USPTOはこの有害なルールをできるだけ早く、正式に廃止する必要がある。米国のイノベーター、労働者、そして経済が再び繁栄することを願うすべての人々が、その恩恵を受けるだろう。


"It's Time for the U.S. to Tackle Patent Trolls," HBR.org, September 16, 2022.