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同族企業が企業戦略を策定するにあたっては、特定の事業を成長させることよりも、一族全体の富を成長させることに力を注ぐことが必要とされる。将来の世代のためにファミリーの資産を増やすには、ほかの投資家と同様、分散戦略が欠かせない。ただし、富の成長に目を向けるあまり、過度の多角化に走れば、業績が低下する可能性が高まる。本稿では、ファミリービジネスが数世代にわたって繁栄するために、自社の領域に関する長期的なビジョンを策定するには何が必要かを論じる。

多角化を成功させるための構造とプロセス

 どれだけ調和が取れていて、経営状態のよいファミリービジネスであっても、何世代にもわたって存続する戦略を策定する際には、深刻な課題に直面する。なかでも最大の課題は、ファミリー所有の資産を将来の世代のために保護し、成長させることだ。そのためには、他の投資家と同様、ファミリービジネスのオーナーにも分散戦略が必要となる。

 同族企業のレジリエンスと継続性を確保するには、ビジネスレベルではなく、エンタープライズ(企業)レベルに焦点を当てなければならない。ここで「ビジネス」ではなく、あえて「エンタープライズ」という言葉を使うのは、単一の事業会社ではなく、一族の資産全体(不動産、パッシブ投資、マイノリティ投資など)を表すためだ。

 企業戦略を策定するには、特定の事業を成長させることよりも、一族全体の富を成長させることに力を注ぐ必要がある。ただし、一部の研究で示唆されるように、富の成長に焦点を当てると、効果のない非関連多角化、すなわち既存事業と関連性がない、もしくは関連性が低いビジネスへの投資につながることが多い。

 企業戦略研究の観点で、このようなコングロマリットは集中型企業と比較した場合に、しばしば業績が低いとされる。

 マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査研究によれば、株主総利回り(TSR)の中央値は、コングロマリットの場合は7.5%、集中型企業の場合には11.8%だという。この調査研究に関する論考の中で、執筆者らは「多角化によりボラティリティを下げることで株主に利益をもたらすという主張には説得力がない」と述べた。その根拠に、個人投資家はみずから分散投資を行うことを挙げている。

 一方、ファミリービジネスでは、一族の個々のメンバーが分散投資をするよりも、共同投資をすることが好まれる場合が多い。

 金銭的な理由(投資をプールすることによる税制上のメリットや規模の経済など)もあれば、金銭以外の理由(共通のパーパスや価値を追求できること、ファミリーとして団結したいという願望など)もある。団結を望む以上に、信託や株主間契約などの所有形態のために、個々のオーナーが共同投資から撤退できず、個人での投資が困難な場合もある。

 このような理由から、家族経営の特徴として、企業の継続性と収益の安定性に加え、コミュニティや従業員、顧客、ステークホルダーへの支援といったソフト面での目標が重視される。