これらの研究は、同族企業が一貫して採用してきた戦略、すなわち企業レベルでの多角化が有効であることを裏付けている。とはいえ、広範な多角化戦略の実行は困難であるため、適切な構造とプロセスのない同族企業が取り組むべきではない。
まず何よりも、同族企業が数世代にわたって成功するには、企業の境界線に関する長期的なビジョンを策定する必要がある。たとえば、シュルツ・コミュニケーションズは、新聞社・テレビ局・ラジオ局の所有から、ブロードバンド事業、クラウドサービスプロバイダーへと有効な形で進化を遂げてきた。
5代目CEOのトッド・シュルツは、この進化に関連するオーナーらの取り組みについて、ポッドキャストで語っている。レガシー事業からうまく撤退するには、ファミリーの団結、徹底的に研究された投資アプローチ、そして移行をサポートする専門知識を持った人物を、取締役会のメンバーとして慎重に選出することが必要だったという。
多くのファミリーが失敗する要因の一つに、一族が保有するさまざまな資産に対して、中央集権的な意思決定組織が存在しないことが挙げられる。一族の資産が、ガバナンス構造、報告、業績目標がそれぞれ異なる、別々の事業体に保有されている場合、リスクとリターンを最適化する企業レベルの戦略を策定することはできない。
出張手配大手カールソン・ワゴンリー・トラベル(CWT)とカールソン・プライベート・キャピタル・パートナーズ(CPCC)を所有し、過去にはラディソン・ホテルやレストランのTGIフライデーズなどのホスピタリティ企業を所有していたこともあるカールソンは、この構造の重要性を理解しており、CWTの傘下に設置した投資部門を、カールソンの取締役会の監督下に置いた。
成功する同族企業は、多角化の決定が成されると、企業の枠を拡大するための機会を特定・評価し、優先順位をつけるために、多大なリソースを投入する必要性を認識する。CPCCの場合は、経験豊富な投資の専門家チームを雇った。この機能は外部に委託することもできるし、投資を行う他の同族企業と協力して構築することもできる。
最後に、成功する同族企業は、ポートフォリオのリバランスを積極的に行わなくてはならない。パフォーマンスの低い資産や価値のピークにある資産を売却し、長期的に有望な領域のみに資本を配分する。
つまり、企業の多角化戦略を成功させる同族企業は、戦略を明確に描き、多様な事業を有効に監督できる構造とプロセスを構築することによって、成果を挙げるのである。また、マイケル・ポーターがHBR掲載論文「競争優位戦略から総合戦略へ」[注]で述べた金言を、常に念頭に置かなくてはならない。企業戦略は、全体の価値が各事業単位の総和を上回るようにすべきであると、ポーターは主張している。
同族企業にとって、その価値は株主への直接的な利益還元だけでなく、長期的な利益還元の安定性、従業員やコミュニティに対する支援など、他の価値も包含するものかもしれない。価値の定義にかかわらず、同族企業の戦略は、その価値を何世代にもわたって提供していくものでなければならない。
【注】Michael E. Porter, "From Competitive Advantage to Corporate Strategy," HBR, May 1987.(邦訳はDHBR1987年9月号)。リンク先は2007年再掲のもの。
"Crafting an Enterprise Strategy for Your Family Business," September 15, 2022.