──ファイザーは、独自の研究に基づきワクチンを開発したと主張しています。しかし2つの製薬会社が、相手の特許技術をいっさい使うことなく、これほどそっくりの製品を開発するということがあり得るのでしょうか。
ファイザーのパートナーであるビオンテックの研究に基づき開発された可能性はあります。ビオンテックも数年前からmRNAの研究をしていましたから。しかし、もしモデルナが決定的に重要な技術について、米国で先に特許を取得していた場合、法的には、モデルナが優位に立つ可能性があります。
一般に、複数の製薬会社が同じタイプの医薬品やワクチンを同時に研究していて、訴訟や交渉の末に、重要特許を取得した企業や大学にロイヤルティを支払うことになるケースはあります。
──このワクチンからまだ利益を得るつもりかという世論については、モデルナはどう考えているのでしょう。それでもモデルナが訴訟を起こしたことに、あなたは驚きましたか。
いいえ、驚いていません。もちろんモデルナも、その世論については考えたと思いますし、実際に訴訟を起こしたことで一定の批判も浴びました。しかしモデルナは、長年mRNA技術を研究してきて、極めて重要な進歩を実現したという強い自負があり、ファイザー/ビオンテックのワクチンは、その進歩を何らかの形で利用したと考えているのでしょう。
ただ、モデルナが、2022年3月までについてはいっさい(特許侵害による)損害賠償を求めない、つまりパンデミックが深刻だった時期(の特許利用)に遡ってまで、追加で利益を求めるつもりはないと述べたのは、そうした世論に配慮した可能性があると思います。
──モデルナのワクチン開発には多額の税金が投入されました。その点は訴訟にどのように影響してくるのでしょうか。
法的観点から言うと、そのことは、この特許侵害訴訟には直接的には影響しないでしょう。ただ、モデルナに批判的な人たちは、同社が連邦政府からワクチン開発支援を受け、さらに大量のワクチン発注という形で数十億ドルの恩恵を受けてきたと言います。税金が投入された直接的な結果として、莫大な利益を得てきたのに、すでに得た数十億ドルの利益に加え、さらに訴訟を起こして(特許使用料の)支払いを求めるなんてとんでもない、というわけです。
これに対してモデルナ側は、今回ファイザーに対して起こした訴訟は、モデルナが米国立衛生研究所(NIH)と共同でワクチン開発に取り組んでいた時に生まれた特許技術とは無関係だとしています。
ただ、モデルナと政府の協力関係は、別の特許紛争で考慮されています。実はモデルナは2022年3月、アービュータス・バイオファーマから同社の新型コロナワクチン特許を侵害したとする訴訟を起こされています。モデルナは5月に、アービュータスの訴えを却下するよう連邦裁判所に申し立てました。その理由として、モデルナは連邦政府の請負業者としてワクチンを供給したことと、連邦特許法により、それについて特許侵害を主張することはできないということを主張しています。この裁判はいまも続いています。