オルソンは『国家興亡論』で、もう一つ、物議を醸す主張をしている。社会の安定と繁栄が長く続けば続くほど、利益団体が障害を乗り越えて組織化をするための時間が生まれる、というのだ。そして、利益団体の数が増えれば増えるほど「社会が新たなテクノロジーを導入し、状況の変化に合わせて資源を再配分する能力を低下させ、その結果として、経済成長率が低下する」と指摘した。

 オルソンが、いま再び脚光を浴びているのは、彼の主張がアンドリーセンの問題意識と軌を一にするものだからだ。つまり、米国では数多くの利益団体が形成され、それぞれが力を獲得するのに十分な時間があったために、経済が柔軟性を失い、停滞している、という点だ。

 当時の日本とドイツの経済が急速に成長するのをよそに、米国と英国の経済が苦しんでいた理由を、この仮説によって説明できると、オルソンは考えた。第2次世界大戦は、多くの人命を奪い、工場と機械を破壊しただけではなかった。それまで時間をかけて形成され、経済成長を抑圧してきたロビー団体も一掃された。とりわけ、敗戦国ではゼロから経済を再建しなくてはならず、談合やロビー活動に経済が足を引っ張られることはなかった。

 米国西部の州が経済成長を遂げる一方で、ニューヨーク市が1975年に破産寸前の財政危機に見舞われたことも、この仮説によって説明できる。経済成長が実現するのは、利益団体がまだ形成されていない場所なのだ。

 今日、米国経済が相次ぐ危機に苦しみ、生産性の伸びが滞り、不平等が拡大し、政治の機能不全が深刻化する中で、オルソンの指摘は実に現代的なものに思える。「本書の刊行から30年の歳月を経て、オルソンは極めて先見の明があり、私が世間知らずであることを思い知らされた」と、グレイザーは『国家興亡論』の序文で記している。

「米国、そして世界の豊かな国のほとんどは、まさにオルソンが予測した通りの形で推移してきた。新たな住宅の建設を阻止しようとする住宅所有者や、医療費節減のための医療保険改革に抵抗する高齢者など、利益団体はますます経済に深く根を張るようになっている。室内装飾や花販売に関する免許制度など、既得権益層を保護するための制度が大幅に増加した。一方、1980年代から2010年代の間に、新しい企業が誕生するペースは大きく落ち込んでいる」

 オルソンの主張を支持する人は、政治的立場の枠を越えて存在する。2021年、リバタリアンの経済学者でジョージ・メイソン大学教授のアレックス・タバロックは『国家興亡論』に言及し、米国のリベラルな都市が犯した政策上の失敗を指摘した。2019年には、左派寄りの政治学者でジョージ・ワシントン大学教授のヘンリー・ファレルが同書を引用して、リベラル派の政治家であるエリザベス・ウォーレン上院議員の思想を説明したこともあった。

「エリザベス・ウォーレンの主張は、市場がどのように機能するかについてのオルソン流の考え方に極めて近い。縁故主義と腐敗が次第にはびこるのが常であり、市場が潜在的能力を十分に発揮できるようにするには、いずれかの段階でそれらの要素を一掃しなくてはならないと考えているのである」

 そして同様の主張は、右派の間でも見られる。この文章を読むと、ドナルド・トランプ前大統領が腐敗一掃を訴える際に使った「沼のヘドロを全部取り除け」という言葉を思い出さずにいられない。