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ダイナミズムが特徴だと考えられてきた米国経済だが、状況の変化に素早く適応できず、減速していると指摘される。問題は、なぜそのような状態に陥ったのか、答えを見出せずにいることだ。そこで指針の一つとなるのが、マンサー・オルソンによる1982年の著書『国家興亡論』である。経済の老化が進むにつれて、柔軟性と力強さを失われていく過程を論じた古典的作品だが、最近になって復刊された。本稿では、経済学者や政治学者の間で再評価が進むオルソンの主張を紐解きながら、同書から我々が何を教訓とすべきかを論じる。

利益団体の台頭、談合やロビー活動の活発化

 2020年4月、ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンが発表した小論文が大きな反響を呼んだ。「いまこそ構築の時」と題された文章である。

 アンドリーセンに言わせれば、米国経済はダイナミズムが特徴だと考えられてきた。しかしこの当時、新型コロナウイルス感染症のパンデミックという数十年に1度の危機に直面する中で、米国経済は減速し、柔軟性を失っているように見えた。マスクや人工呼吸器の供給も不足していたが、米国経済が状況の変化に素早く適応できないのは、今回のコロナ禍に始まったことではない。米国は、住宅や高速鉄道、そして温室効果ガスを排出しない電力源を築くのに長い間苦戦してきた、というのだ。

 アンドリーセンの厳しい指摘は、これまで多くの研究者や評論家が主張してきたことを凝縮したものといえた。この主張に賛同する声は、政治的立場の枠を越えて広がった。

 しかし、米国経済がなぜこのような状態に陥ったのかについては、コンセンサスがない。それは文化の問題なのか。それとも、政治制度の破綻が原因なのか。あるいは、規制が多すぎることが要因なのか。米国のダイナミズムがどこか失われているという点で、論者の意見は一致していたが、その原因については共通認識が存在しないように見えた。

 なぜ米国経済がこのような状態に陥ったのか、この問いの答えを示すとされる一冊の古い本がある。2022年9月にイェール大学出版局から復刊された、マンサー・オルソンの1982年の著書『国家興亡論』である。同書は、経済の老化が進むにつれて、柔軟性と力強さを失われていく過程を論じた古典的作品だ。

 オルソンは同書の中で、経済が老化していくと、談合やロビー活動がはびこるようになり、やがて数々の利益団体が政治過程を乗っ取り、あらゆる物事を減速させた結果、経済が蝕まれると主張した。今回の復刊は、オルソンが取り組んだのと同じテーマに向き合っている経済学者と政治学者の間で、彼の研究実績が再評価され始めていることのあらわれといえる。